漏らさない、射精をしない性交は、古くから中国で提唱され、それは「房中補益の術」という究極の健康法として中国医学の研究者には広く知られている。

 唐代に著された『備急千金要方(びきゅうせんきんようほう:『千金万』)』によれば、房中補益の骨子は「能(よ)く若たび接して施瀉(せしゃ)せざる者は長生す」とある。

 射精しない性行為を推奨するのは体力が衰えて病気になりやすくなる、年齢は40歳以上の初老の男性でも精を漏らさなければ、何度、女性と交わっても、その男の身体は健康増進、長寿を得る、と漏らさないセックスを奨励しているのだ。

年初め、卑猥な会話で福来る

 平安時代中期、藤原道綱母によって記された『蜻蛉日記』には夫・藤原兼家との夜の営みが途絶えがちな結婚生活の嘆きや、同居する兼家の嫡妻(ちゃくさい:正式の妻)である時姫との鬩ぎ合い、そして夫に次々とできる妻妾について記された話である。

 亭主・兼家との夜の営みを、いくら求めても、肝腎の夫は遠ざかるばかり。ならば、運気を呼び込むために縁起を担ぎましょうと道綱母は、

 年の始めに誦(ず)する言寿(ことほぎ)歌、

「天地を袋に縫ひて幸(さいわ)ひを入れてもたれば思ふことなし」

(天地を袋に縫って、そこに幸福を入れてしまえば、もう悩みはなくなる)という寿詞を、

「三十日三十夜はわがもとに入れてもたれば思ふことなし」

(1か月毎日毎晩、夫が、そのイチモツを私の女陰に挿入してくだされば、私の欲求不満による花芯の疼きは鎮まりまする)

 こう祝詞を替えた淫詞を詠いながら夫婦和合の願をかけた、と『蜻蛉日記』には綴られている。

 年の初めには、こうした淫靡な歌を詠ったり、卑猥な会話をしたりしながら笑い合うことで、福が呼び寄せられると信じられていた。