その諏訪湖から流れ出す天竜川では、ザザムシを獲って食べた。川底にいるイモムシが細長くなったような水生昆虫の幼虫だ。昔から“漁師”もいた。高速道路のサービスエリアでは地元の名産として売られてもいた。無論、食べたこともある。

 そうしたことをどこまで知ってか、虫を食べる文化を忌避嫌悪する、というより、実際に虫を食べていた私を差別的に見ていた大人たちが国内にいたことも事実だ。

 ところが、こうした育ちが海外に出て、意外なところで役に立ったこともある。

長野の食文化に中国人が興味津々

 日本人が食料を依存する中国の食品加工工場を取材していた時のことだ。ある日系企業が進出した現地工場では、地元住民との関係を友好的に保つために、中国人の専従班を組織していた。その彼らを交えて現地駐在員と食事をした。取材を兼ねた会食がはじまって、しばらく経ったときのことだ。

 専従班の1人がビールを飲みながら、お前は面白くない、と言い出した。現地駐在員が理由を尋ねると、さっきからこちらが振る舞う料理を平然と食べているからだ、といった。普通の日本人ならば、みんなその料理をテーブルに運べば、「うぇ〜!」だとか、「ひゃ〜!」だとか、声をあげるのに、私が驚かないことが、期待にそぐわないという。

 そこで、申し訳なかったのは、そこに出された料理というのが、ハチの子の炒めたものだったり、イナゴの類や、雀の肉といった料理だったりしたことだ。正直に、こうしたものは子どもの頃から食べている、と伝えるしかなかった。すると向こうがかえって驚いて、そんな場所が日本にもあるのか、詳しく聞かせろ、とビールからもっと強い酒を勧めてくるようになった。