国産オリーブオイル市場でもトップクラスの高級品だが、入手困難の人気ぶり。香川県高松市でオリーブ栽培からオイル作りを手掛ける「澳オリーブ」を訪ね、収穫を体験。製品づくりについて、オリーブ園のこれからについて話を聞いた。

「オキオリーブ」(100ml)7,000円、(200ml)12,000円。「JOOP国際オリーブオイルコンテスト2018」で最優秀賞も受賞(現在は在庫切れ中)

元証券マンが立ち上げた小規模オリーブ園

高松空港から車で約10分、小高い丘の上に約6.3ヘクタールのオリーブ畑を所有する「農業生産法人 オキオリーブ」。代表の澳敬夫さんは、長く証券会社に勤めた元証券マン。高松の支店に赴任した際、国内屈指のオリーブ生産地である高松の気候、風土に魅了され、食品としてのオリーブオイルに多くの可能性を見いだし、現在の土地を取得し「澳オリーブ」を立ち上げた。

代表の澳敬夫さん。25年勤めた証券会社を退社し、「澳オリーブ」を立ち上げた。

8年前のことだ。4年前から製造を始めたオリーブオイルは、200mlで12,000円という高値だが、発売と同時に即、売り切れてしまう。澳さんの指導の下、初めてのオリーブ収穫を体験しながら話を聞いた。

収穫が行われるのは9月末から10月にかけて。温暖な高松では、晴れていれば半袖でも汗ばむほどの気候だ。

高松空港や市の中心地からも好アクセスの「澳オリーブ」のオリーブ畑。木と木の間が6メートルと広いのが特徴。

青い実を鈴なりに実らせた木々が連なり、その先に真っ青な空が広がる景色は爽快。大人の遠足気分ではしゃいでいると、澳さんからノルマを告げられる。収穫したオリーブを即、搾汁し、その搾りたてほやほやのオリーブオイルを使った料理を味わうというのがこの日趣旨なのだ。1ℓのオリーブオイルを搾るのに必要なオリーブの量の目安は30kgだというから、ほぼ全員が初心者の参加者15人が本気で取り組む必要がある。 

収穫の様子。専用の袋を腰から下げ、一杯になったらカゴに入れていく。

「和食に合うオリーブオイル」を手仕事で。

澳さんは開園当初から「和食に合うオリーブオイル」づくりを掲げている。世界的なオリーブオイル産地であるスペインやイタリアを真似ても、質量ともにかなわない。日本の食文化に寄り添うことこそ、日本でオリーブオイルをつくる意味だと考えたからだ。栽培品種は、世界的に希少なミッション種。未熟果を手摘みで収穫し、さらに手で選果(傷がついた果実や汚れを取りのぞく作業)を行う。フレッシュさも味の要ゆえ、収穫から4~6時間以内を目安に搾汁を行うのも重要なポイントだ。

一つひとつ手で収穫。体験すると、限られた生産量や価格にも納得。

突然の“ノルマ宣告”に一瞬、うろたえた参加者一行だが、収穫が始まると、皆が無言で作業に没頭した。ノルマももちろん頭にあったが、青い空の下、吹き抜ける心地よい風を感じながら体を動かし、黙々と青い実を摘み取る作業には、人を夢中にさせる何かがある。実りの時期の畑は美しく、適度な、しかし都会の日常生活では得難い運動量には気持ちをポジティブにさせる心地よさがあり、手を動かした分だけ、青い実がカゴを満たしていく、その充実感もたまらない。

もちろん、その先にご褒美が待っているということもある。

この日は、白金のフランス料理店「ラ クレリエール」の柴田秀之シェフが、スタッフ全員を引き連れて参加。昼夜の食事を用意してくれるというのだから。

青々とした搾りたてのオリーブオイルと、搾油の様子にくぎ付けの「ラ クレリエール」柴田シェフ。

収穫した果実を搾油場に運び、青い実が液体に変わる瞬間を見てまた感動する。搾りたての味は、オイルというより“ジュース”と呼ぶのがぴったりのフレッシュさ。青い香り、心地よい苦みやピリリとした辛みは、なるほど和食や、日本の素材を生かしたガストロノミーの料理に合うと実感した。

香川県のブランド食材、オリーブハマチを使ったカルパッチョをはじめ、魚介のブイヤベース仕立て、デセールのアイスクリームなど、すべてにその日に収穫した希少なオリーブオイルが風味を添えた。

 オリーブオイルを核に、人の流れと文化をつくる。

オリーブ栽培、オリーブオイルの製造とともに澳さんが力を入れているのが、この日我々が体験したようなオリーブツーリズムを行っていくことだ。農園を見渡せる場所に、カフェやデッキテラスがあり、これまでにもトップシェフとコラボした数々の野外ダイニングイベントを行ってきた。広大な敷地のただ中では、ミュージシャンのライブイベント等も大音響で心おきなく楽しめる。園内のキャンプサイト、搾油場と連なるゲストハウスもあり、宿泊滞在も可能。収穫期は、農作業と引き換えに食事、宿泊が提供される収穫サポーターシステムもあり、海外からの旅行者にも人気だ。

柴田シェフは店でも「澳オリーブ」のオリーブオイルを愛用する。畑の中の一夜限りのレストラン。

現在、新しい飲食施設の建設も計画中。オリーブ園としては小規模、生産量も限られているが、食のプロからアーティスト、旅行者まで多くの人を巻き込むことで、農と食を核としたカルチャーを生み出していく。澳さんを魅了したオリーブの“可能性”は、これからまだまだ広がっていくはずだ。