JR東日本がQRコードを利用した乗車サービスの導入を発表した。チケットレス化の新たな手段としてICカード「Suica」を持たない人も利用できるサービスで、同社が路線を展開する全エリアに広げる方針だという。省力化により有人の発券窓口や改札などの駅係員の削減が進む中、デジタル化がもたらした利便性向上について考えてみたい。
(池口 英司:鉄道ライター・カメラマン)
オレンジカード、イオカードからSuicaへ
忘年会、親睦会の季節である。このような場では余興として福引が行われることも多い。簡単な景品の提供は、お土産にも、その場を盛り上げる話題にも好適で、だからこそこの趣向が定着したのだろう。
先日、ある親睦会で「景品はオレンジカードです」とジョークを言ったら、「懐かしいね。あれ、いつ頃のことだっけ?」「あれ、まだ使えるの?」と、しばし思い出話に花が咲いたのだった。
国鉄(日本国有鉄道=現在のJRの前身)が「オレンジカード」を発売したのは1985(昭和60)年3月25日のことで、これは自動券売機で切符が買える磁気式のプリペイドカードである。
当初は1000円券、3000円券、5000円券、1万円券がラインナップされ、私家版用の500円券も用意された。
現金を使わず鉄道に乗れる手段として、後のIC乗車券につながるものである。私家版のオレンジカードにプレミアムがつき、ファンの間で高額での取引が行われたこともあり、これは記念切手などと同様の図式だった。
「オレンジカード」は、あくまで券売機に挿入して切符を発券するカードであり、これで改札機を通過できるわけではない。いわば、現金を取り出さずに済むというだけのもので、利便性はさしたるものではなかったが、やがて直接自動改札機に通して鉄道に乗れる「イオカード」、ICチップを搭載した現在の「Suica」や「ICOCA」、「PASMO」などへと発展し、これら非接触型ICカードは本格的に普及する。