IMF(国際通貨基金)・世界銀行の年次総会でスピーチするイエレン議長(写真:ロイター/アフロ)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

G20議長総括ににじむ思惑

 米ワシントンで開催されていた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は日本時間10月14日に閉幕したが、4月および7月の会合に続いて、今回も共同声明の採択は見送られた。

 これは、対ロシア政策を巡って意見集約が難しいという諸事情から予見されたことではあった。ただ、今回注目されたのは、「インフレ抑制を企図した金融引き締めがもたらす歪み」にどう対処すべきなのかという論点であり、端的には「米連邦準備理事会(FRB)の利上げに伴うドル高の悪影響をどう緩和すべきか」が争点だった。

 共同声明ではなく議長総括で示された文面では、この点に関して以下のような記述で締めくくられている。

 G20 の中央銀行は、それぞれのマンデート(使命)に沿って、物価の安定を達成することに強くコミットしている。このために、中央銀行は、インフレ圧力がインフレ予想に与える影響を注意深くモニタリングしており、景気回復の確保と各国間への波及効果の抑制に配慮しつつ、インフレ予想の安定維持を確保するよう、データを踏まえて明確なコミュニケーションを行いながら、引き続き、金融政策の引き締めペースを適切に調整する。中央銀行の独立性は、それらの目標を達成し、金融政策の信認を支えるために、極めて重要である。

 米国に対する諸外国の不満は下線部に反映されているとみられる。意訳すれば、「米国は他国において資本流出が加速し、通貨下落が促されることに気を遣って欲しい」という胸中だろうか。

 また、これとは別の箇所では、「今年多くの通貨がボラティリティの増加を伴って大幅に変化したことを認識しつつ……」という記述もある。こちらも意訳すれば、「多くの通貨が対ドルで急落を強いられていることを認識して欲しい」という意味だろう。

 もっとも、上述の文章では冒頭に「中央銀行は、それぞれのマンデートに沿って、物価の安定を達成することに強くコミットしている」ともある。これは国内物価の安定を視野に金融引き締めを選択する「中央銀行の独立性」が担保されている文章にも見受けられ、ここは米国の希望が反映されているとみられる。