(冬将軍:音楽ライター)
「ヴィジュアル系」とは音楽ジャンルを指す言葉ではない——しかしながら、日本のロックシーンは「ヴィジュアル系」を軸に発展してきた、と言い切ってしまっても大袈裟ではない。90年代に誕生したヴィジュアル系がなぜ多くの人に受け入れられ、「ジャパンカルチャー」となったのか。その一端となる音楽構成要素を紹介する。(JBpress)
※本稿は『知られざるビジュアル系バンドの世界』(冬将軍著、星海社新書)より一部抜粋・再編集したものです。
ヴィジュアル系っぽい音楽とは何か?
ヴィジュアル系とは音楽ジャンルを指す言葉ではないが、それっぽい音楽、ダークな世界観であるとか、中二病的な言葉選びといった、パブリックイメージとしての〝ヴィジュアル系の音楽〟が存在していることは間違いない。
ヴィジュアル系っぽい音楽要素は、大きく以下の5つにあると考える。
ヴィジュアル系音楽五大構成要素
⒈ 耽美、退廃美の世界観
⒉ 刹那的な歌詞
⒊ 慟哭性のあるマイナーメロディ(泣きメロ)
⒋ 緩急のついたドラマティックな楽曲展開
⒌ ポップならずともキャッチー
この五大要素を踏まえ、音楽とサウンドはもちろんのこと、セールスや後発バンドへの影響力を加味して、ヴィジュアル系ロックの発展に大きく影響を与えた4曲(4グループ)を紹介しながら、ヴィジュアル系の音楽構造について紐解いていこう。
●BOØWY「Marionette」(1987年7月22日リリースシングル)
BOØWYがバンドシーンに与えた影響は計り知れない。ハードロックやメタルでもなければ、パンクでもハードコアでもない〝ビートロック〟を確立し、〝人より目立つためのロック〟から〝カッコつけるためのロック〟を作り上げた。
そのBOØWYによるビートロック美学の完成型が「Marionette」だ。ノリの良い8ビートはシンプルで無駄がなく、マイナーメロディに乗せた横文字交じりの詞はスタイリッシュでクールさを印象付け、サビは誰でも口ずさみたくなるキャッチーさを持っている。ヴィジュアル系に収まらず、どのバンドも当たり前のようにやっているジャパニーズロックのスタイルはBOØWYが作ったと言い切ってしまってもいいだろう。
〈鏡の中のマリオネット 自分の為に踊りな〉という歌詞は、マイナーメロディも相俟って刹那的である。さらにギターリフのイントロも印象的だが、ボーカルメロと双璧を成す〝歌えるギターフレーズ〟もBOØWYの強みである。ペンタトニックスケールやブルーノートといった、ロックギターのセオリーでフレーズを作らずに、歌メロと同じクロマチックスケールでフレーズやギターソロを組み立てていたことも、BOØWYのギター、布袋のギターが歌っている理由である。
当時の流行だった〝都会派〟と呼ばれるスタイリッシュさは、BOØWYのイメージに重なるところがある。初期のどこか荒々しさと人間臭さがあったパンキッシュな音楽性も、作品を重ねるごとに洗練されていき、アルバム『JUST A HERO』(1986年3月)で、音楽とともに無機質感のあるビジュアルをもアーティスティックな世界観として落とし込むことに成功している。「わがままジュリエット」のロマンティックながらもどこか虚無感が漂うミュージックビデオは、ヴィジュアル系世界観における映像美の始まりであるようにも思える。
この「Marionette」はガイナックスが手掛けたSFアニメが盛り込まれたミュージックビデオによって、近未来で退廃的な世界観を作り上げている。