生活費危機の大嵐のなかの船出

 悪い知らせは、次期首相は大嵐のなかを歩き始めるということだ。

 英国のインフレ率は13%を超えると予想されており、主要7カ国(G7)で最もひどい。実質賃金は来年、数十年ぶりのハイペースで下落すると見られている。

 典型的な世帯のエネルギー支出は来年1月、年換算で4300ポンド(約69万6000円)に達する可能性がある。2021年実績の3倍にあたる金額だ。

 ストライキは鉄道から裁判所、港湾、物流、地方議会にまで広がっている。

 ストは、人口の8人に1人が診療待ちのリストに載っているイングランドの国民保健サービス(NHS)にも及ぶかもしれない。

 スナク氏だろうとトラス氏だろうと、新首相はこの生活費危機によって、新内閣が始動する前に足をすくわれる恐れがある。

 労働党は先日、具体的な計画を打ち出し、世帯当たりのエネルギー支出に上限を設ける制度を6カ月間延長し、その上限額を1971ポンド(年換算値)にすることを約束した。

 両候補とも準備不足に見える状態が続いている。

 大半の保守党員はあまり影響を受けていないためか、両候補ともより小さな国家を目指す長期的な目標を強調したいためか、どの程度の財政支出を行うか言いたがらない。

候補2人の政策論争

 なるほどと肯ける話をしているのはスナク氏の方で、減税、税還付、支給対象を限定した給付金を組み合わせた提案を行っている。

 トラス氏は賃金税の引き下げが有効だと主張しているが、これは賃金税の対象から外れる最も貧しい階層にとっては意味がない。

 ただし、トラス氏は(エネルギー料金に含まれている)環境税を引き下げると言っているし、首相になったら補助金などを支給する選択肢も残している。

 願わくは、新首相が英国で2番目に重要で、より根深い問題――経済の長期的な弱体化――に取り組めなくなるような、突発的な事件が発生しないことを祈りたい。