日本一の高山をなめてはいけない

 かれこれ20年ほど前になるが、アパレル関連企業が新入社員採用面接を富士山山頂で実施したことがあり、筆者も同行した。7合目の山小屋で仮眠し、午前1時過ぎに登山を開始し、山頂でご来光を拝んでから面接を行うという企画だった。

 30人ほどの学生が参加したが、面接までたどり着けたのは10数人だった。山小屋での飲酒過多で体調不良になった学生や、高山病の症状で具合が悪くなった学生、雨に打たれ低体温症の症状が出た学生など、半数以上が脱落したのである。多少の雨、風には見舞われたが、それほどの悪天候ではなかった。それでも脱落者が続発した。富士山の厳しさを如実に物語る体験だった。

 さすがに最近はサンダル履きで登山道を歩くといった光景は見かけなくなってきたというが、登山口の5合目までバスなどで行けるため、観光気分で簡単に登れるというイメージを抱いている人が少なくないという。標高3776m、日本一の高山をなめてはいけない。

山頂の火口

 最後に静岡県警地域課の担当者に富士登山に向けてのアドバイスをもらった。

「体力不足の方が目立ちます。事前のトレーニングを十分に行ったうえで登っていただきたいですね。日ごろからのランニングなどに加え、富士登山の前に低山に登っておくことが必要です。

 また登山計画は体力に合わせ、余裕をもって作成し、十分な装備を整える。当日は山小屋で十分に休息、睡眠を取るようにしてください。山小屋での休憩を取らない“弾丸登山”は非常に危険な行為なのでやめてください。楽しく安全に登ってこそ富士山の良さ、素晴らしさを実感できるはずです」

 せっかくの富士登山で遭難してしまったら、家族や山岳遭難救助隊の方など周囲に多大な迷惑をかけることになる。安心安全を心がけ、日本一の名山に挑んでいただきたいものである。

富士山の登山計画は体力に合わせ、余裕をもって立てたい