遭難者23人中10人が「疲労」だった

 遭難例を見ただけで、高齢者、親子連れ、若者など、さまざまな人たちが富士山の山頂を目指していることが分かる。

 富士山の年間の遭難者数(静岡県側と山梨県側の両方)は、コロナ前は5年平均で72人(平成28年から令和2年/警察庁データ)だった。昨年は行動制限下で登山者が少なかった(夏季期間7万8548人/環境省調べ)ことから、遭難者数も24人にとどまった。だが、今年は8月8日まで、静岡県側だけですでに23人である。数字だけ見ればコロナ前の水準に近づいているようにも思える状況だ。

上空から見た無冠雪の富士山

 今年の遭難で何か特徴的なことはあるだろうか。静岡県警の担当者に話を聞いた。

「これまでの遭難者23人のうち、疲労が原因となっている方が10人で全体の43%になります。過去数年の平均が15~16%ですから明らかに多くなっています。体力不足ですね。遭難者の年齢は24歳から84歳で、平均は54歳。平成元年は7歳から85歳で平均45歳でしたから、年齢的には上昇傾向が見てとれます」(静岡県警地域課)

「疲労(体力不足)」と「年配者」が富士山遭難のキーワードと言えそうだ。山岳遭難全体に占める「60歳以上」の比率は5割近くで、年配者の遭難が多いことは富士山に限った話ではないが、「疲労」が全体の4割というのは気になるデータだ(山岳遭難全体では道迷いがトップ)。これについては「コロナ下でのリモートワークや巣ごもりによる運動不足で体力が低下し、登山の感覚も鈍っている」という山岳専門家の指摘がある。

 また、富士山の場合、通常は山小屋に1泊して十分な休養をとるとともに、高山病にかからないよう高度順応をしておくものだが、中には週末などに日帰りで山頂に挑む“弾丸登山”を試みる人がいる。移動などでの疲れが十分に取れないままに登り、体力を消耗して疲労困憊になってしまう、といったケースもありそうだ。このあたりは十分な追跡と検証が必要だろう。