取材・文=吉田さらさ
都心から2時間半ほどの別天地
この連載では地方の著名な神社をご案内することが多かったが、今回は久々に東京の神社を取り上げたい。
青梅市の武藏御嶽神社。確かに東京都内ではあるが、実際に行ってみると、「ここは本当に東京なのか?」と思われるかも知れない。標高929mの御岳山の山頂に鎮座し、東京のみならず、千葉から神奈川までもが見渡せる。周辺には樹木が生い茂り、珍しい高山性の花も咲き、奇岩を眺めながらの山歩きもできる素晴らしい場所だ。都心から2時間半ほどで、こんな別天地に着いてしまうのだから驚きである。
アクセス方法は、JRで御嶽駅に行き、そこからバスでケーブルカーの駅へ。急こう配のケーブルに乗って御岳山駅に着いたら、あとは徒歩。途中に宿坊が建ち並ぶ集落があり、その先の300段の石段を登れば神社に到着だ。東京在住の方なら日帰りも可能だが、せっかくここまで来たらぜひ宿坊に泊まって欲しい。
山岳信仰の修行の場
神社の由緒は古く、紀元前に遡る。天平8年には行基が蔵王権現を勧進したと伝わり、中世以降、山岳信仰の修行の場となった。江戸時代には、庶民の間で寺社詣でが盛んとなり、人々は、地域ごとに「講」を組んでこちらにやって来た。
講とは、お参りを目的とするツアーのようなものである。「御師」と呼ばれる人物が各地を旅して御嶽信仰を布教して回り、村人たちで組織された講をここまで引き連れてきて宿泊の世話もする。これが現在も続く宿坊であり、宿坊の主人の祖先は、この御師である。
境内には数々の神を祀る社がある。本殿の御祭神は櫛真智命、廣國押武金日命など。この廣國押武金日命は、蔵王権現と同一の神とされる。もともと蔵王権現を祀っていたため、こちらは神仏混淆の霊場で、明治初頭の神仏分離令以降、神社となったのである。本殿の前には幣拝殿があり、毎朝、東京の街に向けてお祓いが行われている。この神社は、徳川治世以来、江戸の西の守りでもあるのだ。
旧本殿である常磐堅磐社は1511年に建てられた歴史ある建造物で、東京都指定有形文化財。なんと、全国の一ノ宮に祀られる神々など、八十七柱の神が御祭神というスケールの大きさだ。つまり、ここでお参りすれば、日本中の一ノ宮にお参りしたのと同じ御新徳がいただけるということである。