取材・文=吉田さらさ

三輪山

神の中の神

 奈良と言えば、法隆寺や東大寺など日本を代表する寺を思い浮かべる人が多いだろうが、実は、それらが建立されるより古くから存在し、日本の始まりを物語る神社もいくつかある。そのひとつが、桜井市の三輪山のふもとに鎮座する大神神社だ。「大神」と書いて「おおみわ」と読むところからもわかるように、この神社に祀られる神は、神の中の神であり、もっとも偉大な神と言われる。

『古事記』や『日本書紀』には、この神社の創始にまつわる伝承が書かれている。『古事記』によれば、大物主神という神が出雲の国の大国主神の前に出現し、自分を大和の東の山(三輪山)に祀れば国造りを成就できると告げた。『日本書紀』によれば、その時大物主神は、自分は大国主神の別の御霊であると語り、三輪山に鎮座したとのこと。つまり、大物主神は大国主神と同一の神ということになる。

 こうした伝承を持つ神を主祭神として祀るため、この神社のご利益は、まず国造り、そこから農業、工業、商業すべての産業開発、交通、航海、縁結び、酒造りなど、人々の暮らしの安定と幸福にまつわるあらゆることがらを網羅し、実に幅広い。また疫病を鎮めたという伝承もあるため、製薬、病気治癒のご利益もあるという。国家の危機である今こそお参りし、大物主神様の御威光でこの状況を打破してくださいとお願いしたいものだ。

 

三輪山そのものがご神体

 境内は広く、さまざまな伝承を持つスポットや摂社があるが、まずは、まっすぐに拝殿前に行ってお参りをしたい。ここで、この神社の大きな特徴に気づく。一般的な神社では拝殿の背後にはご神体を祀る本殿があるものだが、この神社にはそれがなく、境内全体を包み込むように聳える三輪山そのものをご神体としている。山や岩などの自然物をご神体とするのは、より古い時代の信仰形態である。

大神神社の拝殿 写真=アフロ

 拝殿とご神体の山の間を区切る鳥居も、ここだけで見られる独特の形だ。中央の大きな鳥居の左右に小さな鳥居があるため、三ツ鳥居または三輪鳥居と呼ばれる。この鳥居も、本殿に代わる存在として神聖視されてきた。以前はこの前に立ってお参りもできたが、昨今は新型コロナウイルス感染拡大防止のため拝観停止中の可能性もあるので注意したい。