また、これも現在は停止中のようだが、実は、ご神体の三輪山にも登拝することが可能である。ずいぶん前にわたしも登ったことがあるが、通常の登山とは異なる点が多々あった。

 まず、登り口で不要な荷物を預け、そこにおいてある幣で自分自身にお祓いを施す。神聖な地に足を踏み入れるのだから、まず自らの穢れをすべて落として行く必要があるのだ。撮影、飲食はむろん禁止。下世話な話だが、トイレもない。山内で見たものについて語るのもよくないとされるため、詳しくは書けないが、古代に行われていた祭祀の跡をいくつか見たとだけ言っておこう。

 

蛇を見かけたら吉兆

 境内には、他にも、古代への入り口のような謎めいた場所が多く、中でも印象深いのは、巳の神杉と呼ばれるご神木である。

大神神社の巳の神杉 写真=アフロ

 大神主神は数々の女性と恋に落ちた大国主神の化身でもあるため、やはり、なかなかエロティックな伝承を持っている。顔を隠して夜な夜なある娘を訪ね、怪しんだ娘が正体をあばくと、実は蛇だったという驚くべきストーリーだ。そのためこの神社では、蛇も神として大切にされ、参拝の際に蛇の好物とされる生卵をお供えする風習がある。以前お会いした神職の方が「長くここにいるわたしもまだ見たことがないが、蛇は本当にいます。実際に見た人が何人もいるのです」と言っておられた。蛇が現れるのは吉兆とのことなので、探してみて欲しい。

三輪そうめん 写真=PIXTA

 お参り後にぜひご賞味いただきたいのは、この地の名物、三輪そうめんである。神社を出たところからJR桜井線の駅周辺まで、いくつもの店がある。わたしは三輪山から下ってきてすぐ、一番近い店に駆け込んで、冷たいそうめんをいただいた。もう10月だったがかなり暑い日だったため、つるつるとのどごしのよいそうめんが、この世で一番のごちそうに思えた。あれはもしかすると、大物主神からのご褒美だったのだろうか。