取材・文=吉田さらさ 写真=PIXTA

戸隠神社 随神門

5つの社からなる戸隠神社

 暑くなってくると、決まって、この神社に行きたくなる。標高1904mの戸隠山の中腹にあるので真夏でも涼しいし、森や湖もある素晴らしい環境に心身が癒される。

 戸隠山は天照大神がお隠れになった天の岩戸が飛来して山になったものとされており、山服に奥社・九頭龍社・中社・火之御子社・宝光社の五つの社が点在、これを総称して戸隠神社という。それぞれの社には、主に天の岩戸神話で何らかの役割を果たした神々が祀られている。

宝光社へ続く石段

 麓から登っていくと、まず宝光社がある。祭神は天表春命。中社に祀られている天八意思兼命の御子神で、開拓、学問技芸、安産などの御神徳を持つ。270段の急な石段を登っていくと、荘厳な社があらわれる。杉木立に囲まれ、光が降り注ぐ神々しい空間だ。

宝光社

 続いて岩戸の前で踊りを披露した天鈿女命ほか三柱の神を祀った火之御子社がある。小さいながら趣きがある社で、芸能や縁結びのご利益を求めてお参りする人が多い。

火之御子社

 その上にある中社は、もっとも規模が大きく、戸隠神社の社務所も置かれている。主祭神は天八意思兼命。岩戸神楽(太々神楽)を創案し、岩戸を開くきっかけを作ったとされる知恵の深い神で、学業成就・商売繁盛・開運・厄除・家内安全などの御神徳を持つとされる。

中社の鳥居

 境内は他の社より広く、パワースポットと言われる場所がいくつかある。まずは、樹齢約700年のご神木や、鳥居を中心とした三角形にそびえ立つ樹齢800年の三本杉などが目につく。もうひとつ有名なのは、社殿の右奥にあるさざれ滝である。山の湧水が流れ落ちる小さな滝で、この水しぶきを浴びると、心身が清められ、パワーをいただけるとのことだ。

中社のさざれ滝

 

奥社までの杉並木は圧巻

 最後に戸隠巡りの中でもとっておきの御神域、奥社に向かう。他の社は車で前まで行けるが、こちらだけは、駐車場に車を止めて40分ほど参道を歩かねばならない。しかし、その参道が実に素晴らしいのだ。天に向かってまっすぐ伸びる杉並木が延々と続き、両脇には、深い森がある。さまざまな花も咲き、初夏には水芭蕉も見られる。何種類もの鳥の声も響き、神とは今ここにある自然のことだと実感できる。参道の中ほどには赤い随神門がある。杉並木をバックにしたこの門はたいへんフォトジェニックで、観光ポスターにもよく使われる。

奥社へと続く杉並木

 そこを越えてさらに歩くと少し険しい山道になる。だんだんと息が上がってくるが、あとひと頑張り。石段を登りつめた先に、九頭龍社と奥社がある。

九頭龍社

 九頭龍社はもともとこの地にあった水信仰の社で、水の流れを象徴する九つの頭を持つ龍を祀っている。水の神、雨乞いの神としての性質が強いが、龍は歯が強いとされることから、虫歯にもご利益があると言われる。

鳥居の奥に見えるのが奥社。紅葉の時期もおすすめ

 奥社には天照大神を岩戸から引き出し、二度とお隠れにならないようにと扉を投げ飛ばした天手力雄命が祀られている。ここが戸隠神社の御本社であり、開運、心願成就、五穀豊穣などのパワーに満ちた御新徳がある。これらの社の先には、戸隠山に登るための本格的な登山道が続いている。

 戸隠は、現在は神話をもとに成り立つ神社だが、江戸時代までは神仏混淆で、天台宗の寺でもあった。当時は、各地から講を組んでお参りに来る団体が多かったため、人々を泊めて世話をする宿坊があった。それは現在も存続し、宝光社や中社の周辺に点在している。

 宿坊の主人は神主でもあるが、かつての神仏混淆時代のやり方に従って、毎朝祝詞を上げたあとに般若心教を詠む宿坊もある。また、戸隠は美味しい蕎麦の産地であるため、宿坊の主人には蕎麦打ち名人も多い。夕食に打ちたての蕎麦を出してくれる宿坊もあるので、ぜひ一泊して、神話の世界と自然を満喫していただきたい。