人生の節目や季節の行事など、日本人の暮らしに欠かせない神社。厄除けや縁結び、出世や家内安全まで、古来より人々が願いを託してきた神社の巡り方を、寺社仏閣に詳しい吉田さらささんがご案内。神社発祥の由来や祀られた神様、知られざるスポットを厳選して紹介していきます。
取材・文=吉田さらさ
緑深い森の中ある都会のオアシス
井の頭線の永福駅から徒歩10分ほど。「ここが都内とはとても信じられない」と思うほど緑濃い森の中に、わたしが東京で一番好きな神社、《大宮八幡宮》がある。
主祭神は八幡神、すなわち応神(おうじん)天皇であるが、こちらでは、その父の仲哀(ちゅうあい)天皇、母の神功(じんぐう)皇后もともに祀られている。神功皇后は妊娠中に船に乗って大陸に出陣し、帯に石を結びつけて陣痛をおさえ、勇敢に戦った。そして戦勝後、帰還して応神天皇を出産されたという伝承から、この神社は、安産、子育てにご利益があるとされる。
創建は1063年。奥州で起きた前九年の役を鎮めるため、源頼義の軍がこの大宮の地にさしかかると、大空に白雲がたなびき、源氏の白旗がひるがえるかのような光景となった。源頼義は「これは八幡神の守護のしるしである」と喜び、奥州を平定して凱旋のおり、京都の石清水八幡宮より御分霊をいただいて、この地に神社を建てた。八幡神は、武運の神でもあることから、古くから、源氏などの武家にも信仰されてきたのである。
神社に縄文・弥生時代の土器が?
しかし実は、この地の歴史は、それよりはるか昔にまでさかのぼる。主に結婚式場として使われている清涼殿という建物の一隅に、縄文・弥生時代の土器が展示されている。
これらは、この神社の北側の善福寺川沿いにある大宮遺跡から出土したもので、この遺跡は、そのころこの地を治めていた族長の祭司跡とされる。つまりこちらは古代以来の聖域に建つ特別な神社なのだ。
それに加え、この地は「東京のヘソ」、つまり東京の重心に位置している。そのため、この神社は、都内でも有数のパワースポットとも言われている。本当にパワーがあるかどうかはわたしにはわからないが、ここに来ると、なんとなく心身が浄化されたと感じるのは確かだ。
7月には七夕のルーツとなった飾りも
一の鳥居に続いて二の鳥居。左右に樹木が茂る参道の先に神門がある。そこをくぐると正面に立派な拝殿と本殿。伝統的な建物をこれだけきちんと配置している神社は、都内でも珍しいのではないだろうか。
本殿の左右には大宮稲荷神社や大宮天満宮などの摂社もいくつかあり、商売繁盛や学業向上などの祈願もできる。大宮稲荷神社の前にある共生(ともいき)の木は、さまざまなお参りスポットの中でもとりわけお勧めの場所である。カヤの木にイヌザクラの木が寄生しているもので、双方が力を合わせて生きている様子を「ともいき」という言葉で表している。人生を共に生きるパートナーや家族の結束を願う人がお参りするとご利益がありそうなご神木だ。
この神社は、季節ごとに、祭や古式ゆかしいイベントを開催してくれることでも人気が高い。わたしが特に好きなのは、七夕に関する一連の行事だ。毎年7月1日~15日には、清涼殿のロビーで「乞巧奠(きっこうでん)飾り」と呼ばれる平安時代の宮中で行われていた七夕飾りを再現した展示を見ることができる。これは、短冊のルーツと言われる梶の葉や五色の紙垂などを飾り付け、技芸の上達を祈る行事だ。また、神門前には大宮八幡乞巧奠潜りが設けられ、実際にこの下を潜って祈願をすることもできる。
おすすめのお土産は?
わたしは、こちらにお参りすると、決まって二つのものをお土産にしている。ひとつは清涼殿で売られている「へそ福万」と呼ばれるお菓子だ。その名の通りこの地が東京のヘソに当たる場所であることにちなんだやわらかなお饅頭で、真ん中にヘソに見立てた小豆がひとつのっている。
もうひとつは、神門の手前にある多摩清水社でいただく御神水だ。こちらは、現在は都心の一角だが、かつては武藏野にある多摩の大宮と呼ばれていた。ここから湧き出す水は命の源と考えられており、毎年8月1日に水神様に感謝をささげる例祭も行われる。「へそ福万」は清涼殿内にある喫茶スペースで煎茶や抹茶とともにいただくこともできるが、持ち帰り、いただいた御神水で淹れたお茶とともに食べると、より福に恵まれそうな気がする。
多摩清水社の周囲には竹林があり、まるで京都のような風情である。自然に囲まれた境内のたくさんのご利益スポットがあり、お楽しみも盛りだくさん。ぜひ散歩がてらお出かけいただきたい。