東京五輪大会組織委員会での高橋治之理事(当時、2020年3月30日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 8月1日、『毎日新聞』の一面のトップに「最低賃金値上げ30円以上」「物価高で過去最大 審議会決定へ」の記事。これは見出しだけで、なんの記事かわかる。

 でその左側に「元理事別に1.5億円受領か」「AOKIスポンサー料と認識 五輪疑惑」の記事が併載されている。これもだいたいわかる。

 かたや「30円」、もうひとつは「1.5億円」。この対比がなんとも皮肉だ。この対比の先には、5円10円の賃金の値上げに無関心ではいられない約2000万人の非正規労働者(雇用者の4割)がいて、もう一方にはそんな生活とは一生関係がない、少数の「上級国民」がいる。

 結局、今年の最低賃金の値上げは31円で決着し、全国加重平均で961円になった。毎年労使間の攻防がなされるが、去年は28円で決着。といっても最低賃金は都道府県で差があり、昨年度でいえば、最高は東京の1041円、以下は大阪992円、北海道889円、福岡870円、青森822円、大分822円、そして最低は高知、沖縄の820円である。これは各地での物価や住居費の差があるから、しかたがない。

 31円の値上げは、1日8時間労働として日額248円増、月に20日勤務として月額4960円増、1年に5万9520円の値上がりである。しかし物価高などを考えればほとんど焼け石に水である。わたしにも覚えがある。月5000円の給料アップなど、まったくやる気がでない。が、ないよりはマシだろ、と自分にいい聞かせ、我慢してきたのである。

 記事に一例があげられている。岡山県の女性(50)の場合。工員の夫とこども3人の5人家族。夫の手取りは月22万円。彼女は週4日、1日に7時間半生協で働き、土日は午後9時から午前5時までファストフード店で働く。生協の時給は1300円ほどだが、両方合わせて手取りは月21万円ほど。「最低賃金は年々上がってうれしいが、生活は好転しない」という。

 引き上げ額は過去最高というが、所詮31円では意味がない。中央最低賃金審議会では1円2円の攻防をやるのだろうが、毎年毎年20円30円を議論の前提にしているかぎり、いつまでたっても「生活は好転しない」。

豪邸、外車数台というわかりやすいお金持ち

 もう一つの記事の「元理事別に1.5億円受領か」の元理事とは、東京五輪大会組織委の高橋治之元理事(78)のことである。一生涯、最低賃金という概念などとは無関係な人物である。