かれの父親は輸入商で財を成し、テレビ朝日設立にも関わった実業家らしい。高橋氏は慶応幼稚舎から慶応大学を出て、電通に入社した。しかし平社員時代から運転手つきのジャガーで出勤していたという。こんなお坊ちゃん、ほんとにいるのだねえ。世田谷区の自宅は数億円の豪邸。1億円近いベンツの最高級車メルセデス・マイバッハを所有し、他にもベンツが3台。さらに六本木のアークヒルズで高級ステーキ店も経営していて、安倍元首相や菅前首相も利用していたといわれる。

 お金持ちの常で、豪邸、外車数台、というのがわかりやすい。あとは別荘にプライベートジェットか豪華クルーザーでもあれば、めでたく上がりである。かれのような人にとっては、人は立って半畳、寝て一畳、胃袋は一つ、という事実がさぞ悔しいであろう。牛みたいに胃袋が4つぐらい欲しいのではないか。

 このような人物にとっては、時給31円の値上げなど、どこの世界の話か、というものにちがいない。とはいえ、かれの高級ステーキ店の従業員の賃金はどうだったのか。そんなことは店長にまかせていたのだろうが、なぜか「1.5億円」問題が持ち上がったあと、そのステーキ店は急遽閉店したようである。

1.5億円はステーキ店の借入金に使われたのか

 その「1.5億円」問題というのは、こういうものである。

 この人は2017年に紳士服のAOKIとコンサルタント契約を結び、2017年から月100万円の顧問料を4年間、すなわち4500万円を受け取った。ところが契約を結んだ後に、AOKIが東京五輪のスポンサーになったことから、高橋氏の働きかけがあったのではないか、つまり4500万円は賄賂ではなかったかという疑いが出ている。

 今回問題となっているのは、このお金とはべつに、2018年にAOKI側から電通の子会社を経由して2億3000万円が高橋元理事の会社に送金されたが、そのうちのおよそ1.5億円が抜かれて元理事に個人的に渡り、それが経営するステーキ店の借入金の返済にあてられたのではないかという疑惑のことである。

 収賄疑惑は捜査当局にまかせて、われわれの関知するところではない。しかし東京五輪を巡っては予算が巨額に膨れ上がるなど、そもそも招致の段階から、競技場の建設など、不明な点ばかりがある。五輪に限らず、各種の予算がいかにどんぶり勘定でやっているかということだが、この砂糖の塊に有象無象の関係者が山のようにたかって、食い散らかしているのだ。しかしその実態があきらかになることはあるまい。

 日本ではオリンピックというと森喜朗元首相やJOC前会長の竹田恒和氏の名が挙げられるが、バッハIOC会長とも直接電話ができて、“五輪サロン”に唯一食い込んでいるのが高橋元理事で、国際的に通用する日本随一の人と目されているらしい。かれは電通時代に、スポーツビジネスで莫大な利益を出す方法を確立したのだろう。その過程で、どうしたらどれだけの金の流れができるか、というシステムを作ったのではないか。