米中両国が見せた自制

 いくつかの点で、米国と中国はともに自制していると英キングス・カレッジ・ロンドンのアレッシオ・パタラーノ氏は指摘する。

 ペロシ氏がマレーシアから台湾に移動する際に使われた米軍機について考えてみるといい。

 飛行機は中国が大部分の領有権を主張している南シナ海の上空を避け、わざと大回りしてフィリピンの東側を飛行した。

 米国の軍艦は南シナ海に入っており、武装された島々の周辺で中国の主張に異議を示すことも多いが、今回の複雑な飛行ルートの設定はこれら2つの問題をうまく切り離していた。

「実に巧妙に、さりげなくやってのけた」とパタラーノ氏は言う。「ただ、中国が注意を払うのはそういうところだ」。

 米中の競争が熱を帯びるなか、そうした暗黙の合図が交わされていることは注目に値する。

 中国の反応は攻撃的で、台湾の領海に侵入するなど違法でもあるが、一部で恐れられていたほど好戦的なものにはなっていない。

「実は私自身、南シナ海や東シナ海の周辺で中国が軍隊を動かし始めるのではないかと少し心配していた」とパタラーノ氏は吐露した。

「船舶や航空機に嫌がらせをするとかね」

中国軍の力量を推し量るチャンス

 その可能性はまだ残っている。中国の今回の反応の全容は、数日か数週間経って初めて分かることになろう。

 台湾東部の海域の制限を8月4日に一部解除したとはいえ、船舶の航行には「危険な区域」を新たに設定したと発表し続けた。

 一方で、人民解放軍による武力の誇示はその力量を推し量る機会にもなる。