2010年12月、岩手県土整備委員会会議において、212号について意見交換がされた記録が残っている。「やっぱり道路は基本的に結んで道路なのですよ。歩いていくという、まさに登山道も県道になっているかもしれませんけれども、あくまでもあれは登山道なのです。大変苦労して県道を結んだという努力はわかりますけれども、地元とすれば、やはり将来(自動車道として)結んでほしいという声は消えないという風に思います」という出席者の発言が印象に残る。

近くに来る人はいるのだが

 では松川大橋は完全に「忘れられた橋」なのかというと、そうでもない。この一帯は紅葉が見事なことで有名で、紅葉シーズンには多くの車が松川大橋の通行制限ゲートまで来て、大勢の人でにぎわうという。

 紅葉シーズンでなくても、松川大橋からの眺望はすばらしい。眼下には、濃い緑の木々の間に真っ白な煙がもくもくと立ち上っている。これは日本初の地熱発電所である松川地熱発電所の冷却塔から排出される蒸気である。ここは発電所のPR施設「松川地熱館」もある。

 さらに近くには、松川温泉と旅館もあり、人がまったく来ない場所ではない。

 しかしそれであっても、「車の通らない橋」はさみしい。「橋」としての本来の役目を発揮する、何かよい手立てはないものか――たなびく白い煙を松川大橋から見ながら、そんなことを考えた。