第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレーションでは紙幣が紙くずに(写真:Ullstein bild/アフロ)

(平山賢一:東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト)

「値上げ許容度」発言は撤回されたが

「総裁発言、値上げ納得しない おカネ無い」

 金融を学ぶ大学生との会話で飛び出した心の叫びが、胸に染み入る。

 物価上昇が問題になる中、日銀の黒田東彦総裁が「家計の値上げ許容度も高まってきている」などと発言し、猛烈な批判を浴びた。国会でも野党議員から追及され、「全く適切でなかった」として発言撤回に追い込まれた。

 いつの時代にあっても、人々はインフレを喜んで受け入れることはない。仕方なく受け入れるのだ。特に収入が限られる若者と年金生活者にとって、食料品・生活必需品の価格上昇は耐え難いもの。生活の根幹である食料品の価格が急上昇すると、入手が困難になり死活問題になる。さらに食料品を輸入に頼っていれば、自国通貨安は輸入品価格の上昇に輪をかけるだけに、問題をより大きくさせてしまう。

 現役の就労者にしてみれば、食料品価格が上昇しても、給料や賃金が上昇して帳消しにしてくれるのであれば大きな問題にはつながらない。ところが、企業は、業績を大きく左右する給料を積極的に上げるわけにはいかないのが現状。給料の上昇は、食料品価格の上昇よりも抑えられる傾向が強くなるだろう。

 一方、2022年4月、久しぶりに消費者物価指数の伸び率が2%を上回ったのを節目に、金融機関には、どのようにインフレに対応した資産運用をすべきかとの相談も増えているという。果たして株式投資は有効なのか、これまでのタンス預金は避けるべきなのか?

 以下では、極端なインフレを経験した2つの事例を基にして、社会の変化と資産運用について考えてみよう。その事例とは、フランス革命後のパリ市民の事例と、第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレの経験だ。