(英エコノミスト誌 2022年6月18日号)
過剰な「レジリエンス」はなぜ危険なのか。
今から3年前、本誌エコノミストは国際貿易・通商の脆弱な状況を描写するために「スローバリゼーション」という言葉を用いた。
活況に沸いた1990年代、2000年代が去った後、世界経済の統合ペースは2010年代にガクンと落ちた。
企業が世界金融危機の余震や開かれた国境に対するポピュリスト(大衆迎合主義者)の反発、そしてドナルド・トランプ米大統領の貿易戦争などへの対応を強いられたためだ。
モノと資本の流れが滞った。多くの企業経営者が外国での大型投資の決断を先送りした。ジャスト・イン・タイムはウエイト・アンド・シー(様子見)に取って代わられた。
グローバル化が直面しているのは一時的な落ち込みなのか、それとも消滅なのか、当時は誰にも分からなかった。
急激に進むサプライチェーン再構築
その様子見も終わった。
新型コロナウイルスのパンデミックとウクライナでの戦争を機に、企業と政府で30年に1度あるかないかのグローバル資本主義の見直しが進められているからだ。
今では、右を見ても左を見てもサプライチェーンの再構築が真っ盛りだ。
品不足やインフレに備える保険としての在庫投資は9兆ドル規模に達し、グローバル企業が事業拠点を中国からベトナムに移す過程では人材の争奪戦が繰り広げられている。
この新種のグローバル化の最重要ポイントは、効率性ではなく安全性だ。
自国の政府に友好的な国で、信頼の置ける相手とビジネスを行うことが最重要視される。この現象は保護主義や大きな政府、インフレ悪化に転じかねない。
あるいは、企業と政治家が自制すれば、レジリエンス(打たれ強さ)を高めつつ開放経済の利益を維持し、世界経済を良い方向に変えられるかもしれない。