クオンタムリープ時代の出井伸之氏(2014年/撮影:横溝敦)

 ソニー(現ソニーグループ)で10年間にわたり社長、会長を務めた出井伸之氏が6月2日に肝不全のため亡くなった。84歳だった。

 社長に就任したのは1995年。13年間の長期政権を敷いた大賀典雄氏からバトンを引き継いだ。1999年に社長兼CEOとなり、2000年に会長に就任してからもCEOにとどまり、2005年に退任した。

ソニーの宣伝塔を自任する「カッコイイ経営者」

 出井氏の評価は、前半7年間と後半3年間でまったく異なる。

 前半の出井氏は、とにかくカッコイイ経営者。長身で見栄えがよく、メディアへの露出も多く、「ソニーの宣伝塔」を自任した。「アウディ」や「ポルシェ」といった外車を乗りこなし、週末には軽井沢の別荘に文化人など多種多様な人々を招く一方で、ビル・ゲイツなど海外の著名経営者とも交流を深めていく。そのうえで、自らのライフスタイルをもとに『ONとOFF』という本まで出版した。

 経営面では、「デジタル・ドリーム・キッズ」を掲げ、ソニーのデジタル化を進めていく。1996年にはパソコン「VAIO」を発売。VAIOはAV機能を重視したことに加え、スタイリッシュなデザインで、瞬く間に人気ブランドに育っていく。1999年には「プレイステーション2」を発売、累計1億5500万台を売る大ヒットとなった。この数字は今でも家庭用ゲーム機の最多販売記録となっている。

 しかも世の中はITバブルの真っ最中。それを追い風にソニー株は2000年に1万6590円の最高値を付けた(分割考慮)。この株価は2022年6月現在、破られていない。

 ところが2003年4月25日、すべてが暗転する。その前日、2003年3月期決算が大幅減益になると下方修正。それが引き金になって25、26の両日、ストップ安となる。いわゆる「ソニー・ショック」であり、それに引きずられる形で平均株価も大きく下落した。下方修正で明らかになったのは、本業であるエレクトロニクス事業の低迷だった。