2002年、ソニー代表取締役会長兼CEOの出井伸之氏(写真:ロイター/アフロ)

(大西康之:ジャーナリスト)

 6月2日、元ソニー社長の出井伸之氏が亡くなった。84歳だった。亡くなる直前まで自らが立ち上げた投資会社、クオンタムリープで次世代ビジネスの育成に奔走し、生涯現役のダンディズムを貫いた。

 出井氏は1995年にソニーの社長に就任し2005年に会長を退任するまで、10年間、ソニーのトップに立った。経営者としての評価は「栄光の前半」と「失墜の後半」で明暗が分かれる。だが、ゲームや映画・音楽などの「非エレクトロニクス」で高収益を叩き出し、株式時価総額でトヨタ自動車に次ぐ国内2位につける現在のソニーの礎を築いたのは紛れもなく出井氏である。

ポツダム広場「再開発の目玉」となったソニーセンター

 筆者が初めて出井氏に単独で取材したのは2000年。出井氏が、ベルリンの壁崩壊後のポツダム広場の再開発の目玉として建設されたソニーセンターの視察に訪れた時のことである。世界的な建築家ヘルムート・ヤーンが設計した総工費7億5000万ユーロの複合商業施設はソニー・ヨーロッパの本社に加え、高級アパートやシネマコンプレックスを兼ね備えた壮大なもので、ソニーの絶頂ぶりを物語っていた。

 売れっ子タレント並みに分刻みのスケジュールで動いていた出井氏とのインタビューの場所はソニーセンターから空港までの車中だった。夕日を正面から受けて走っていたこともあり、インタビューの最中、出井氏はサングラスを外さなかった。筆者は欧州駐在だったのでソニーの欧州戦略について質問したが、出井氏は前方を向いたままぶっきらぼうに応えるだけだった。

「カリスマだかなんだか知らないが、随分、傲慢な人だな」

 それが当時の偽らざる感想だった。