フィンランド議会でNATO加盟について討議するマリン首相(5月16日、写真:AP/アフロ)

 ナポレオン戦争以来、200年に及ぶ中立政策を放棄したスウェーデン、ノーベル賞平和賞が軍事的中立性を失った2022年という文脈から、前稿(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70238)までスカンジナビア2か国のNATO(北大西洋条約機構)入りを考えました。

 今回はフィンランドに焦点を当ててみます。

 前々稿(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70188)で触れたように、ナポレオン・ボナパルト自身がロシアとの密約で、いわば「売り渡す」ような形で、フィンランドはスウェーデンの属州からロシア帝国の支配下に入りました。

 大国間の思惑、利害調整によって祖国の運命が左右された。

 しかし、フィンランド人には「いまだかつて一度として、ロシア/ソ連に軍事的敗北を喫したことはない」という強烈な自負がある、と元在ヘルシンキ日本大使館書記官、外交官OBの北川達夫・星槎大学教授は強調します。

 フィンランドはハンガリ―やエストニア同様フン族の末裔、アジアからやって来た騎馬民族という、独立不羈の気概、プライドに満ちた、誇り高い民族です。

 前述の北川教授は、私にとっては幼馴染で2学年後輩に当たりますが、ヘルシンキもタリンも現地勤務が長く、ちょうどソ連の再末期に在ヘルシンキ勤務、ソビエト崩壊でエストニアが独立したため、タリン勤務で激動の時期を現場で過ごしました。

 現地語を駆使し、また卓越したピアニストでもあるので、各地のトップミュージシャンやVIPの歌の伴奏など、ピアノで外交を支えるという余人にできないキャリアを持っています。

 こうした私たちの生業、音楽の仕事に引き付けるなら、作曲家シベリウスの愛国的な交響詩「フィンランディア」をご存じの方も多いでしょう。

 ハンガリーのフランツ・リストやベラ・バルトークなども同様、強烈に鼻っ柱の強い国民性、私も長年フィンランドとのご縁がありますが、付き合えば付き合うほど痛感させられます。

 そんなフィンランドを、日本は従来軽視する傾向があった。

 例えば私がティーンだった頃、米ロナルド・レーガン大統領の腰巾着よろしく「日本は不沈空母となって米国の対ソ戦略を支える」と発言した中曽根康弘という元総理がいました。

 ソ連の政策を忖度しNATO入りなど一貫して控えてきたフィンランドの「親ソ政策」を指して、「ああなってはおしまい」という趣旨の発言があり、当時高校生だった私は、ひどいことを言うものだと呆れた記憶があります。

 そんな中曽根「大勲位」の90代での発言が良識派に見えるほど、2010年代の日本政府、また日本メディアの外交常識は、水準が低下しています。実例でお目にかけましょう。