軍事化される南極

 日本の上杉謙太郎外務政務官も4月26日、ソロモン諸島を訪れ、ソガバレ首相に「中国とソロモン諸島間の安全保障協力協定について懸念をもって注視している」と伝えた。

 ソロモン諸島はエリザベス英女王を君主に頂く英連邦王国15カ国(英国を含む)の一つだ。その英連邦王国に激震が走っている。

 カリブ海に浮かぶ島国バルバドスは独立以来、英連邦王国のひとつだったが、21年にエリザベス女王を君主とすることを止め、共和制に移行した。同国は一帯一路への協力文書に署名しており、地元メディアによると、中国は教育機器やノートパソコン、タブレットなどのテクノロジー機器をバルバドスに寄贈するとともに、農業プロジェクトにも投資している。

 共和制に移行する動きが強まるジャマイカも一帯一路に参加する10番目のカリブ諸国として名を連ねている。スリランカは英連邦王国ではないものの、英連邦加盟国の一つである。こうした国々はシーレーン上の要衝に位置している。

 ヘンダーソン氏は「中国が英連邦をソフトターゲットとみなしているのは明らかだ。いくつかのレベルで動いている。ボリス・ジョンソン英首相が掲げる『グローバル・ブリテン』の基本ラインの一つは南シナ海などにおける英国の継続的な利益を守ることだ。その中には中国の干渉を受けない台湾の安全保障、香港の自治を維持することも含まれる」と言う。

「太平洋地域、特にオセアニアと英国のつながりにはポスト植民地主義の幻想というレッテルを貼られる。かつて西側列強が保持していた地域を中国が奪い取り、新しい国際秩序が出現したと喧伝している。そして中国は南米や南太平洋、南極に長期的な関心を持ってきた」

 ヘンダーソン氏はインド洋の『真珠の首飾り』と同じように南太平洋から南極につながる『真珠の首飾り』があるという。中国は一帯一路の中で資源が豊富な「極地の大国」を目指す構想を掲げている。ヘンダーソン氏は南太平洋の『真珠の首飾り』が完成した時、南極は「軍事化」されている恐れがあると示唆した。

マシュー・ヘンダーソン氏(2019年12月、筆者撮影)

【マシュー・ヘンダーソン氏】
専門分野は中国戦略、東アジア関係、安全保障におけるアングロサクソン系電子スパイ同盟「ファイブアイズ」の課題、国際安全保障を専門にする独立系コンサルタント。英外務省で30年近く外交官を務め、主に中国を担当。ケンブリッジ大学卒業後、オックスフォード大学で研究修士(いずれも中国研究)。ブリティッシュ・カウンシル奨学生として北京大学に留学。