――薬や治療法が確かに効いて安全であるとか、速く安く行き渡るためには、科学的な根本の仕組みや作用を突き詰めることが欠かせないのですね。

宮崎 そうです。AIMを投与すればさまざまな病気に効くとわかっても、本当に細かい作用のメカニズムまできちんと研究せずに薬にする気はありませんでした。そうでないと、怪しげなもので終わってしまう可能性もありますし、何より使う人の安心を最大限に担保することが科学者としての義務であり、それが当然あるべき姿勢です。

 でも、一刻も早く困っている人たちに届けたいし、現場では「効果のあるお薬がじきに出来ますよ」と言って安心させたいと思うこともありパラドックスになる・・・けれども、患者さんたちの期待や不安を煽ってはならないと常に肝に銘じています。

タンパク創薬の発展にはハード面の整備が急務

――AIM医学研究所を設立されたことで、厚みのある基礎研究を含めた研究環境を民間で整備するロールモデルが作られると期待もされています。

宮崎 動物実験も含め、いわゆる生物学的な実験が十分できる施設で、しかも行政とのやり取りや会議、研究に使う機材や試薬の入手などに便利な首都圏にあるとなると、使える施設は非常に限られます。最終的に、新宿のTWIns(東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設)内に広いスペースを貸借して研究所を開設しました。

 設立準備をしていて感じたのは、大学以外でこうした医学・生物学研究を大規模に行える施設は、特に首都圏内では、実はとても少ないことでした。

 新しく独立した研究所を作ろうとした際、さまざまな専門的な設備が必要になりますから、いちから建設したり所有したりするのは困難です。まずは既存の施設やレンタルスペースを使うことになりますから、条件を満たした施設が首都圏にもっとあれば、独立して研究所やベンチャーをやろうという人たちも増え、研究が推進されるのではないかと思います。

 私たちは新型コロナウイルスの治療薬研究もしていますが、そのためにはコロナウイルスに感染させた動物を使うことになるので、「BSL3」という2番目に高いレベルの実験施設が必要になります。しかし国内には3、4カ所しかなく、ほとんどすべては所属する大学の専用になっており、常に埋まっている状態で、なかなか満足に使えません。喫緊の課題でありながら、国によるハード面の整備が他の近隣諸国に比べても十分とは言えないように感じました。

 海外ではそうした施設を持っている民間業者が業務委託を請け負っていますが、日本国内にはまだありません。結局、私たちはカナダの大学と共同研究することにしましたが、スピード感をもって取り組みたいと思っても、AIMタンパク質などの研究試料を送るのも大変ですし、カナダで採取した動物の検体も検疫があるので送ってもらうこともたやすくありません。そんな時、実験施設や委託業者が国内にあれば・・・と歯がゆい思いを何回もしています。

 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)にも何度か提案しましたが、科学の将来を見据えたハード面の整備は必要不可欠です。近隣の台湾や中国、韓国では免疫疾患等の治療に使われる抗体医療などのタンパク創薬のための施設作りを、ずっと以前から行政の主導のもと、システマティックに始めて、その後民間企業としてスピンアウトさせています。

 以前、猫AIM薬の開発の一部を台湾の受託会社と共同で開発しましたが、「国内にあればすぐに行って、直接日本語で細かいところまでやり取りができるのに」と何度も思いました。