新型コロナウイルス感染症とAIM創薬研究
――新型コロナウイルス感染症では、AIMはどのように使われる可能性があるのでしょうか。
宮崎 2005年にスペインの研究グループが「AIMが細菌に貼り付き、菌をまとめて固めて弱毒化する」という報告をしているのですが、もしも細菌よりも小さい新型コロナウイルスに同じような働きをするのであればウイルスそのものを標的にした薬になるかもしれません。
また新型コロナの深刻な後遺症もわれわれが注目すべき分野です。腎機能の低下などは太い血管に、また味覚・嗅覚障害では細い血管にそれぞれトラブルが起きている可能性が考えられます。
災害の後にがれきを取り除かなければ新しい家を建てられないように、感染による炎症が終息した後の体内も、老廃物や残骸のようなゴミを片付けられていないために小さな血管の修復がうまくいかないのかもしれません。初期に後遺症で注目された脳梗塞や急性腎不全は、本来、AIMの最大のターゲットですから、それが多く起きているということはAIMに何かあったという可能性もあります。
もし、今AIMがすでに何かしらの疾患の薬として認可されていれば、すぐに治験を始めることができるので、新型コロナの後遺症で苦しむ人たちを見て、「ああ、これが薬になっていれば」と本当に思いました。このような予想外の世界的な疾患が起こった時のためにも、どんな病気に対する薬としてでもいいので、とにかく一刻も早くAIMを薬にしておかねばならない。そのためにも猫のAIM腎臓病治療薬の実現で得られる知見は、とても重要です。
「文化のないところに本物の科学は育たない」
――東大では著名な科学者や芸術家を招いた講演会やイベントを開催しておられたそうですが、これはどのような狙いがあってのことだったのでしょうか。また、同様の活動はAIM医学研究所でも行われる予定でしょうか。
宮崎 研究者には、若いうちから芸術や科学領域の超一流に触れてもらいたいと思っています。そのために東大では、ノーベル賞の受賞前の本庶佑先生や岸本忠三先生、ハーバード大やバーゼル大から知り合いの教授を招くなど一流の先生方に講演に来ていただき、学生や研修医を対象にしたセミナーシリーズをやっていました。どの先生も気軽に来てくださって、若い人には大好評でした。
やはり若い人は、超一流に触れる前と後では大きく変わりますし、そういう機会に飢えているのだなと感じました。
科学者だけではありません。2006年にはピアニストのクリスティアン・ツィメルマンを東大に招き、コンサートと対談を行いました。彼のような超一流の芸術家とも触れてほしいのです。人間の精神や自然の美、神秘といったものを音楽家は音楽の言葉で表し、科学者は科学の言葉で表すのですから、科学者の卵はきっと啓発されるところがあると思います。
私がヨーロッパで研究しているときには、外に出ればコンサートホールやオペラ劇場、数々の美術館などさまざまな文化が身近にありました。ヨーロッパの科学は自然の深いところに切り込んで医学を紡ぎ出していく、血の通った自然科学だと常々感じるのですが、それは文化の深さが土台にあるからではないかと思うのです。科学と文化は車の両輪で、文化のないところに本当の科学は育たないのではないでしょうか。
科学者の卵たちが一流の科学と文化の両方に接し、吸収していく機会を、AIM医学研究所でたくさん作ることができればと思っています。
*AIM治療薬は治験薬製造前の段階であり、現時点では治験の参加などは受け付けていない。