――AIMの猫腎臓病治療薬には多くの人から寄付が集まりましたが、研究者を支え、科学が発展することに寄付者も携わると言えますね。

宮崎 もちろん、いただいた寄付はまず薬の開発に使わせていただきますが、そのためには若い研究者の協力、尽力がなければできませんから、彼らが安心して猫の薬に打ち込めるようにも有効に使わせていただきたいと思います。そのために、AIM医学研究所も引き続き応援していただければと思います。

 皆さんと一緒に作っていく薬であり、研究所です。ここから何人もノーベル賞学者が出たら、あの時寄付してくださった人たちと共に日本の科学が発展したのだと胸を張って言えるでしょう。

じっくり基礎研究に取り組む重要性

――つい、ここ数年で急に猫の夢の治療薬が出てきたように思いがちですが、実際には宮崎先生が20年以上、4カ国にわたって研究を続けられてきたからこそですよね。

宮崎 いまの日本では、3年、5年といった短いスパンで実用につながる成果を求められますから、じっくり基礎研究に取り組むのは難しいのです。私がAIM研究の最初の10年間、時間をかけてAIMの基礎的な研究に取り組めたのは、たまたまその時期に海外にいたからかもしれません。

 1999年にバーゼル免疫学研究所でAIMを発見してから、アメリカのテキサス大学でもほぼノーデータでしたから、もし日本でやっていたら諦めなければならなかったでしょう。もちろん10年かけてじっくり研究するというのは研究者自身の辛抱が続くかどうかにもかかってきます。

 やはり、一つの分子や生命現象の本当の声を聞く、真実を垣間見るには本当に時間がかかります。いかに諦めないで辛抱強く研究を続けられるか、これはとても大切なことではないでしょうか。

 20年経った今でもAIMにはゴミ掃除以外の働きがあるのではないかと考え始めたように、他のタンパク質でもこれまでわかっている成果以外に作用を持っているかもしれず、短期間で論文にまとめて成果を出さなければ次の研究費を得られないというシステムでは、狭い範囲での成果以外の大きな可能性を閉ざすかもしれません。

 もちろん、実用的な目的や目標とする応用研究も開発も大切ですし、医学ではその先に待っている患者さんたちがおられます。そのためにも、基礎研究の厚さは必要なので「成果が出なくてもしつこく続けろ、10年やってダメならさらに10年粘れ」と言えるような研究環境が作れたらいいのですが。