布川事件の元被告・桜井昌司さん(映画の完成披露舞台挨拶で。筆者撮影)

(柳原 三佳・ノンフィクション作家)

 4月2日(土)、東京の日比谷コンベンションホールで、ドキュメンタリー映画『オレの記念日』(金聖雄監督作品)の完成披露上映会と舞台挨拶が行われました。

 レンガ造りの千葉刑務所を外から眺め、ここでの暮らしを“懐かしむ”シーンから始まる105分の作品、その根底に流れる「冤罪被害」というテーマはあまりに重く、日本で暮らすことが心底恐ろしくなるほど深刻な問題を突き付けられます。

 ところが、本作品を見終えた後、私は不思議なほどの清々しさを感じていました。

身に覚えのない「強盗殺人」の罪

 この映画の主人公で、「布川事件」の元被告・桜井昌司さん(75)は、少しはにかみながら、自らを「選ばれし者」と称します。そして、こう言うのです。

『苦難は喜びの種。どんなに辛いことや苦しいことがあったとしても、それを喜びに変えられるのが人生だと思っています……』

 全く身に覚えのない「強盗殺人」の罪をでっち上げられ、犯人として嘘の自白を強要されたのは桜井さんが20歳のとき。裁判では無実を訴えながらも、結果的に無期懲役の判決を下され、その後、29年間にわたる獄中生活を余儀なくされます。

 しかし、常人ならとても受け止めきれない壮絶な体験をしながらも、桜井さんはあえてそうした出来事に遭遇した日を「記念日」と呼び、常に前向きに歩み続けてきたのです。

 このドキュメンタリーは、再審無罪を勝ち取った2011年の前年から12年間、桜井さんの日常にカメラを向けて制作されました。