韓国では、女性家族部が実施する「女性優遇策」による逆差別で不利益を被っていると感じている男性も多い。また、女性家族部は元慰安婦の支援団体である正義連と関係が深く、慰安婦支援活動の産業化に加担しているという批判もある。そうした中で、女性家族部廃止を求める声はこれまでも上がっていた。尹氏は新大統領として、いよいよそれを実行に移そうというのだ。

 14日、国会で開かれた共に民主党の「民生改革法案実践のための常任委員長及び幹事団連席会議」では、この尹氏の「女性家族部廃止方針」に対する反発が相次いだ。女性家族部の廃止は政府組織法の改正が必要であり、172議席を持つ民主党の同意がなければ不可能だ。

 民主党の中でも「女性家族部廃止、絶対阻止」で一致しているわけではない。ただ、大統領選挙後に20~30代の女性の党員が増加していることから、その声を代弁しようということのようだ。民主党は、女性家族部廃止に対する世論の推移を見ながら、対応の水位を上げていく方針のようである。

政権発足直後の「積弊清算」は難しいが

 このように、今後、尹錫悦氏は文政権が行った政策を全面的に見直してくるだろう。特に、社会主義的管理を配した経済政策と労働政策、文政権の5年間で2倍に高騰した不動産対策、北朝鮮や中国に対する対応、日米との関係……。これら文政権が進めた左翼的で、反米・反日、親中・親北的な政策はいずれも白紙化しようとするだろう。

 具体的な対立点は政権引き継ぎ期間であるこの2カ月の間に次々に明るみに出てくるだろう。文在寅政権の経済政策は、例えば最低賃金の急激な引き上げなど、社会主義的な理念が先行した夢想的なものも多く、これらは現実の経済理論とかけ離れたものだった。それをあるべき方向に修正するだけで、低迷する韓国経済が多少は好転する可能性はある。

『さまよえる韓国人』(武藤正敏著、WAC)

 国会の議席では、共に民主党が圧倒的多数を占めているが、尹氏の政策転換を国民が好感すれば、国民の支持を背景に、議会との力関係にも変化が出てくるはずだ。そうなったときに、文在寅政権時代の不正に関して握っているネタがあれば、捜査機関が動き出す可能性がある。もちろん大統領となった尹氏が捜査に口を挟むことはないだろうが、捜査機関の動きにストップをかけるつもりもないだろう。

 尹錫悦氏と文在寅氏との対立は始まったばかりだ。当面はお互いの腹の内を探り合いつつ、尹氏は文在寅時代とは違う政策で国民にアピールすることを主眼にしていくはずだ。その中で、文在寅政権にできた綻びも次々に明らかになっていくだろう。そのタイミングで、明らかな不正を追及することについては国民も反発はしまい。つまりその時には「国民の統合を最優先に考える」ことと、文在寅政権の不正を追及することは、必ずしも相反しなくなる。2人の本当の対決が始まるのはそれからになるのではないか。

 文氏の政策については拙書『さまよえる韓国人』を参照願いたい。