退任後の自身への処遇を心配する文在寅氏
文在寅氏にとって李大統領の赦免問題は、自身の退任後の展望とも重複して見えるはずだ。尹錫悦氏は、今年2月、中央日報とのインタビューで「執権すれば前政権の積弊清算捜査をするのか」という質問を受け、「しなければいけない。(捜査が)行われなければいけない」とし「文在寅政権で不法と不正を犯した人たちも法、システムに基づいて相応の処罰を受けなければならない」と述べている。尹氏のこの態度は選挙戦を通して一貫したものだった。
これを「政治的報復宣言」ととらえた文在寅大統領や与党「共に民主党」は強く反発していた。
文大統領は2月10日、秘書官との会議で「根拠なく政府を『積弊清算』の対象に仕立てたことに、強い憤慨を表す」と述べた。韓国では過去の政権交代時にも退任後の大統領や家族、側近の不正が相次いで摘発されていることから、尹錫悦氏の発言が新大統領の下でこうした事態が繰り返されるとの予言と受け止め、強い反発に出ているのであろう。
文在寅氏にも、今後、追及されかねない疑惑が取り沙汰されてきた。長年の知人が出馬した慶尚南道蔚山(ウルサン)市長選に大統領府が介入したという疑惑、月城(ウォルソン)原発1号機の経済性を過小評価し、早期閉鎖に持ち込むのに政権幹部が関与したとされる疑惑、文在寅氏が退任後の住居購入にあたって土地の用途を変更し巨額の利益を得たとされる疑惑などだ。
しかし、文政権の下では政権幹部が関与する疑惑に対する捜査は遅々として進んでいない。捜査機関は政権の意を汲むような人事・組織に変更され、政権幹部に指摘された疑惑は、ことごとく封印されてきたからだ。
そのため文在寅政権の幹部は、検事総長出身の新大統領が政権を取り、「積弊の清算」に乗り出すのではないかと神経質になっている。実際、過去には退任した大統領が、かつての「不正」を指摘され、逮捕されるようなことが相次いできた。