一度任命されてしまえば、それを任期途中で尹錫悦・新大統領がひっくり返すことは不可能だ。
というのも、環境部の金恩京(キム・ウンギョン)元長官が、朴槿恵(パク・クネ)政権時代に任命された環境部傘下機関の役員らに辞職を迫ったことで、懲役2年の刑を言い渡されている。政権が交代しても公共機関長の辞任を強要することは事実上不可能なのだ。だから尹氏は、焦っているのだ。
文政権による人事権の乱用を懸念する尹錫悦氏
文政権が人事を急いでいる状況を見て、尹次期大統領は選挙の2日後には青瓦台関係者に対し「文政権末期の公企業・公共機関の人事を強引に進めず、われわれと協議してほしい」と申し入れたという。
青瓦台と行政安全部は公式的には「慣例通りやる」として、尹次期大統領と相談したいとの意向を示した。しかし尹氏は、「早くも『落下傘人事』の兆しが見えている」と懸念しているという。
というのも、尹氏からの申し入れ以降も、文政権による人事が断行されているからだ。韓国ガス安全公社の常任監事(3月10日)、韓国南部発展の常任監事(2月25日)の任命は尹氏からの申し入れの前だったが、監査院の監査委員や韓国成長金融の社内・社外理事の人事にも与党が関与しそうな気配が濃厚だという。
さらにこの3月末には最重要の人事が控えている。3月末に任期満了となる李柱烈(イ・ジュヨル)韓国銀行(韓国の中央銀行)総裁の後任人事である。与党サイドでは「現在青瓦台が進めている人事はない」と述べているが、今後4年間を共にする総裁は新政権が任命するのがふさわしいだろう。
思えば人事は文政権にとっての命綱であった。文政権は国会が賛同しなかった長官30人以上の任命を強行した。その中には曺国(チョ・グク)元法務部長官のように不正行為にまみれた人などが含まれている。文政権は人事で周囲を固めることで、野党の反対を押し切ってその左翼的政策を断行し、同時に文在寅大統領とその側近に囁かれる不正を隠蔽し続けてきた。
米国ニューヨーク・タイムズが、ソウルと釜山の市長選挙の敗北要因と指摘した「ネロナンブル」(「自分たちがやればラブロマンス、他人がやれば不倫」というダブルスタンダード)も、そのような人事で固められた政権の団結力のたまものである。