暁生さんは、検察が「危険運転致死傷罪の成立」(赤信号を殊更に無視)についてしっかりとした論告を行ってくれたことについては評価し、感謝しているものの、求刑については大きな不満があるといいます。「危険運転致死傷罪」の最高刑である懲役20年の半分にも及ばない、懲役7年6月というものだったからです。

厳罰化の流れの中、過去の量刑を尊重する考えも

「検察官は、『結果が極めて重大、私と耀子に全く落ち度がない、信号無視の動機が身勝手で態様も悪質』と述べてくれました。しかし、肝心の求刑については、過去の信号無視事案の量刑と比較し、相対的な情報に照らして7年6月を導きました。たとえば、懲役8年以上だった過去の事案は、ひき逃げや酒気帯びもからんでいるので、私たちの事故の場合はそれ以下が相当だということです。しかし、これではいつまでたっても新しい判断は生まれないと思うのです」

自らも事故で重傷を負わされた父・波多野暁生さん(筆者撮影)

「危険運転致死傷罪」は、平成13年に新設された歴史の浅い法律です。法定刑の上限が15年から20年に引き上げられたのは、さらに3年後の平成16年です。

 その後も、「ながら運転」や「あおり運転」の罰則が強化されるなど、悪質な交通事犯については現在進行形で厳罰化の流れが強まっています。

「被害者参加代理人の高橋正人弁護士は、法廷でこう述べてくださいました。『裁判員裁判は、国民感覚を裁判に反映するためにできた制度です。(中略)ぜひ、皆様の国民としての一般的な当たり前の感覚で、この事件を考え、量刑を決めていただきたい』 そして、『過去の事件に機械的にあてはめて量刑を決めるようなことは絶対にしないでください』と。まさに、過去事例との比較で求刑年数を導いていたら、時代と国民感覚に即した犯罪抑止の効果は期待出来なくなってしまいます」(暁生さん)