プーチン大統領の決断の裏にある国内事情とは(写真:ロイター/アフロ)

(岩田太郎:在米ジャーナリスト)

 ロシアを20年以上支配してきた69歳の独裁者、ウラジーミル・プーチン大統領が西隣の主権国家ウクライナへの本格的な侵略を2月24日に開始して、1週間以上が経過した。わずか44歳のウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナ国軍、義勇兵や市民の士気と抵抗意欲は予想以上に高く、準備の足りないロシア侵略軍は苦戦を強いられている。プーチン氏の想定の甘さ、兵站(へいたん)・補給の軽視、不利な情報の無視などが指摘される。
 
 しかし、戦場よりもはるかにロシアが不利な立場にあるのが、情報戦だ。まず、占領・統治を目論むウクライナにおいては、「ロシア軍は解放者だ」とのナラティブが国民に受け入れられず、民心掌握に失敗している。

 また、ロシア国内におけるプーチン支持者の結束は固いものの、極めて厳しい国際社会の金融制裁が引き起こす生活苦により、大統領から民心が離れる危機に直面している。さらに、国際連合の討議などの場においても、ウクライナが大部分の国の同情と支援を勝ち得る一方で、ロシアの主張は嘲笑の的になる始末だ。

 とは言え、善戦してきたウクライナ軍もやがて刀折れ矢尽き、遠からずロシアの傀儡(かいらい)政権が樹立されることが予想される。それでも、西側から武器供給を受けたゲリラ兵や国際義勇兵による市街戦や市民の不服従により、駐留するロシア侵略軍や後方のロシア本国経済のコストは跳ね上がり、真綿で首を締められるように圧迫されていくことになろう。

 さらに、プーチン大統領やロシア軍指導部が戦争犯罪に問われる可能性さえあり、1931年9月に旧関東軍が引き起こした柳条湖事件に端を発する満洲国成立で、日本が国際的に孤立していった際の状況を彷彿とさせる。

 ではなぜ、ロシアは情報戦で勝てないのか。さらには、なぜウクライナに対する侵略戦争を仕掛けなければならなかったのか。それは、指導者個人の資質や表面的な国際政治の構図を超えた、国内の根源的な矛盾が噴出したものではないだろうか。戦前の日本もそうであったし、台湾や尖閣諸島をはじめ、西太平洋全域の独占的支配を目論む中国共産党が運営する「中華人民共和国」もしかりだ。

 そのため、現在のプーチン大統領の攻撃性および情報戦の失敗を分析することは、過去のわれわれの無謀な戦争を内省するだけでなく、近未来に必ず起こるであろう習近平国家主席の対外侵略に対する理解に役立つ。本稿では、過去の日本、現在のロシア、将来の中国における国内矛盾と戦争の関係に焦点を当て、論じてみたい。