(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
国際通貨基金(IMF)は、国際収支危機に陥った国に対して金融支援を行うことを目的に創設された国際金融機関だ。そのIMFは1995年以降、ウクライナに対して11回の金融支援を決定している。うち9回は短期の支援であるスタンドバイ取極(SBA)であり、残りの2回は中長期の支援である拡大信用供与措置(EFF)である。
正確に言うと、2004年5月に許可したSBAに関しては、ウクライナ側がこれを利用しなかった。そのため、実際に実行された金融支援は10回になる。いずれにせよ、IMFはウクライナに対して1995年以降、550億SDR(特別引出権、約817億ドル)の与信枠を用意したが、実行された融資は234億SDRと43%にも満たない。
与信枠は余裕を持って設定されるため、実行額との間である程度のかい離は生じるものだ。しかし、ウクライナへの支援の場合、IMFが支援を打ち切ったケースが多い。例えば、1998年9月にEFF(与信枠は約19.1億SDR)を実施した際、IMFは2002年9月までに約12億SDRを拠出したが、それ以降の融資を打ち切った。
またクリミア危機(2014年2月)に伴う経済危機を受けて、2015年に実施した2回目のEFF(承認額は約123.5億SDR)の際にも、融資は4回目までのトランシェ(支払い)で約62億SDRが供給された後、打ち切られた。それぞれIMFがウクライナに対して定めた融資条件(コンディショナリティ)が達成されなかったためである。
IMFは2010年7月に承認したSBAの際も、融資条件の未達を理由に2回目のトランシェで支援を打ち切っている。2008年10月と2018年のSBAは、ウクライナの政治的な混乱を理由に打ち切ったが、IMFはたびたび融資条件の未達を理由に支援を中断しており、それが融資枠と実行額とのかい離を生んでいる。
構造調整融資と言われるIMFの金融支援は、支援先の国に財政改革を要求するのが常だ。財政改革は歳入と歳出の両面から行われるが、即効性があるのは歳出カットとなる。そのためIMFは、国有企業の民営化や補助金・年金の削減などを求める。つまりそうした財政改革の履行が、IMFが支援先の国に課す融資条件となるわけだ。