(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ウクライナ情勢が緊迫化している。1991年12月、旧ソ連邦の崩壊伴い独立した現在のウクライナは、典型的な「失敗国家」ないしは「破綻国家」としての歴史を歩んでいる。さらにウクライナは、ヨーロッパとロシアの「緩衝国家」であり、双方の思惑の中で翻弄されるという数奇な運命を辿っている。
ウクライナを巡る国際政治に関しては、諸賢による分析が数多い。そうした分析とはあえて距離を置き、独立以来のウクライナの歩みを経済面から振り返り、ウクライナという国が持つ特殊性を確認してみたい。こうした作業も、緊迫化するウクライナ情勢を理解する上での一助になると考えられるためである。
ウクライナの一人当たり名目GDP(国内総生産)は、独立から30年の間、4000米ドル(約50万円)を天井に増減を繰り返している(図1)。その水準は常にロシアの半分以下であり、ヨーロッパ(欧州連合<EU>)の10分の1程度に過ぎない。実質GDPに至っては独立直前の6割程度の規模にとどまっており、非常に厳しい状況だ。
●図1 ウクライナの一人当たりGDPの推移
それに、ウクライナは世界でも富の偏在が激しい国の一つだろう。ソ連崩壊に伴う混乱に乗じて巨万の富を成した極少数の新興企業家(オリガルヒ)がいる一方で、時代の荒波にさらわれたまま貧しい生活を強いられる人々は数多い。汚職も蔓延し、巨大な規模の地下経済の下で非合法な活動が行われていると言われる。
ソ連時代のウクライナは、先進的な工業国だった。