写真=松橋晶子(楠本修二郎)

 世界の課題に着目すると、日本の食、あるいは世界の食がどのように変化していくのかが見えてくる。そのポイントとなるのは、データをいかに活用するか。
 食がもたらす、美味しさや楽しさ、交流、さらには健康増進など多岐にわたる恩恵を、データを用いて地域ごとに最適化できれば、食の可能性はより広がっていくと予想される。食の近未来について慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授と著書『おいしい経済』を上梓したばかりのカフェ・カンパニー代表の楠本修二郎氏が語る。

文=山中勇樹

データを活用した新しい食の体験へ

楠本:食に関しては、DXやフードテックなどの動向も重要だと思っているのですが、宮田先生は「食と健康」の分野にも注目されていますよね。

宮田:はい。そういう意味では、世界がサスティナビリティを重視する方向に移行した一つの背景として、デジタルによって繋がりが生まれた、繋がらざるを得なくなったということがあります。

 これまで企業は、グリードに儲けて、そこで干からびれば移動する、悪評が立っても違うところに移動すればいいと、いかに富を効率よく稼ぐかが重視されてきました。

 ところが世界が環境問題に直面し、カーボンニュートラル、あるいは経済、あるいはコロナなど様々な目的で繋がったことによって、持続可能な未来の中でいかにバランスをとるかが重要になりました。

 翻ってみると、日本は江戸時代末期に「三方よし」という文化がありました。あれは鎖国によって国が閉じていて、国内が繋がらざるを得なかった。そこで今で言う顧客と企業と社会の三方のバランスを取ることが、文化として根付いていたわけです。これが開国して、いわゆる合理性の波に飲まれて、この数十年は“グリード・イズ・グッド”となっていたわけですね。

楠本:日本の「三方よし」精神が、今、世界的に求められていますよね。

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宮田:そうなんです。食べることひとつとってみても、農家の方々にちゃんと利益を還元できているか、搾取していないか、フードロスをはじめとする環境負荷になっていないかなどを見る必要がある。

 あるいは、地域と繋がりのあるエコシステムによって地域経済が活性化したり、人が活性化したり、 あるいは食べることそのものの喜びや文化的な楽しさを共有したり、栄養や病気のこともありますよね、そのような色々なところで食べることと世界が繋がっています。

 このように多様なつながりの中で、どういう豊かさを共に創っていけるかが、これから大事になってきます。


楠本:そうですね。その中で、宮田先生はデータ活用によって日本の食はどう変わっていくとみていますか。