岸田文雄首相が謎めいた“聞く力”を駆使し、安定した政権運営を行っている。安倍政権後半から菅政権にかけて非常に手厳しかった大手マスコミも、リベラル風味で腰の低い岸田政権には極めて甘く、おかげで内閣支持率は好調だ。今後、オミクロン株が猛威をふるえば先行きは不透明になるが、最大派閥の安倍派、第2派閥の麻生・茂木両派の支持があるため簡単には崩れないだろう。今年の政局はどうなるのか。興味深いのは、首相経験者である麻生太郎自民党副総裁、安倍晋三元首相、菅義偉前首相が健在である点だ。表舞台から去ったはずの二階俊博元幹事長の動きも不気味だ。1人の首相と3人の首相経験者、さらに元幹事長が群雄割拠している状況を整理する。(以下、敬称略)
「麻生―茂木」ラインの形成
2021年12月22日夜。東京・雷門の高級鳥料理店(鴨などジビエが出る)に安倍、麻生、幹事長の茂木敏充が集まった。茂木行きつけの、一見さんお断りの有名店で、毎年暮れに茂木が安倍を招いていることで知られる。最大派閥の安倍派(95人)、第2派閥の麻生派(志公会、53人)、茂木派(平成研究会、53人)のトップが集結した格好だ。
23日午前には自民党本部で岸田、麻生、茂木の3人が会談。24日にはキャピトル東急ホテル内の日本料理店で、岸田、麻生、茂木、官房長官の松野博一の4人が昼食をともにした。
いずれも報じられている内容だが、麻生と茂木がセットで動いているのがポイントだ。永田町では「岸田―安倍」の関係、「岸田―麻生」の関係に目が向きがちだが、今の自民党は麻生と茂木に重心が移りつつある。
麻生は首相経験者である。2009年8月の衆院選で大惨敗し、民主党に政権を奪われた自民党にとってみればA級戦犯だ。しかし、今やそのようなイメージ、記憶は薄まっている。2012年12月発足の第2次安倍政権で副総理兼財務相として入閣して以来、政権中枢で復権を果たした稀有な政治家であり、岸田政権でも存在感は抜群だ。
副総裁と幹事長の部屋は自民党本部4階で近接しており、顔を合わす機会が多い。上昇志向のかたまりの茂木が、まだまだ元気な麻生とより緊密になるのは自然な流れだ。「茂木マニュアル」が話題になったように、茂木はその強烈な性格・キャラクターがクローズアップされるが、それ以前に、閣内と党で要職に就き続けてきた実力者だと認識しなければならない。