投開票日の31日、自民党本部の開票センターでメディアの取材に応じる岸田文雄総裁(写真:代表撮影/AP/アフロ)

 自民党は10月31日投開票の衆院選で絶対安定多数の261議席を獲得した。この結果を予測していたメディアや有識者、永田町関係者は少なかった。なぜなら報道各社の情勢調査や当日の出口調査で、自民党の苦戦を伝える数字が出ていたからだ。

 自民党幹部でさえ情勢をかなり悲観していた。例えば、投票日の31日昼時点で、自民党有力筋でさえも「過半数割れの可能性がある」との見方を示していた。もっと言えば同日午後8時過ぎの段階でも、フジテレビは単独過半数割れとの見通しを報じていたほか、NHKも単独過半数は「ぎりぎり」と繰り返していた。

驚愕の「自民惨敗」を示す出口調査

 10月31日午後、主要報道機関の出口調査が永田町に一斉に出まわった。数字は中間報告、途中経過に過ぎなかったが、自民党が過半数の233に達しないという予測が次々に出てきた。報道機関が出口調査の詳細を公表していない以上、あくまで推測でしかないが、自民党が絶対安定多数を取る兆候は数字からは読み取れなかったようだ。自民党有力筋も当然、それらの情報をつかんでおり、自民党惨敗を感じさせる材料だらけだった。

 31日夕、千葉県のある自民候補者の陣営幹部は複数の報道関係者に問い合わせを行い、「このままでは危ない」と語り、有力支援者らに投票に行ったかどうかを確認する電話を慌てて入れ始めた。投開票日当日の選挙運動、特定候補への応援は禁じられているが、投票を呼びかけること自体は推奨行動だ。支持者を固めきり、投票に行ってもらわなければ接戦では勝てない。だから最後の5分まで、投票に行ってもらうよう呼びかける。油断して投票しない人も中にはいる――。長年政権を維持してきた自民党は、投開票日当日も手を抜かない。

 一般的に低投票率の方が与党に有利とされ、今回もそのセオリー通りの結果となったが、選挙現場ではやや様相は異なる。「自民党に入れるべき支持者が漏れなく投票に行くように積極的に働きかけている」のが実態だ。敗北への危機感と焦りが、ぎりぎりまで票を積み上げる努力に結びつく。結果的に、この陣営幹部が推す候補者は接戦を制した。筆者には「本当に危なかった」と明かした。