麻生は岸田派(宏池会、43人)との合流を念頭に置いた「大宏池会」構想を温めている。実現すれば数の上で最大派閥の安倍派を超えることになる。12年以上も前に首相を退任したベテラン政治家がいまだに政局の真ん中にいる。

岸田の「安倍離れ」、体調万全の安倍

「清和政策研究会(安倍派)の原点は、昭和37年に福田赳夫先生が立ち上げた党風刷新連盟である、という歴史を聞いたことがある。当時の池田勇人総理の所得倍増論に反対するために立ち上がった組織だと聞いている」

 2021年12月6日夕、東京プリンスホテル鳳凰の間。安倍派の政治資金パーティーに招かれた岸田がこう昔話を切り出したところ、会場内からざわめきが起きた。岸田は会場の反応に味をしめたのか、笑みを見せながら「それから60年。大変ありがたいことに、清和政策研究会の皆様に岸田内閣の『新しい資本主義』を支えていただいている」と持ち上げた。

 池田勇人は宏池会の創設者である。岸田は池田に憧れており、政策の中身や方向性こそ異なるものの、「所得倍増論」と「新しい資本主義」を重ね合わせていることがわかる。

 岸田が、敵対関係にあった宏池会と清和政策研究会の過去の因縁をわざわざ安倍の前で持ち出したことに驚かざるを得ない。首相就任前、優等生過ぎて眠くなるようなあいさつばかりしていた人物とは思えない、スパイスの効いた発言だった。だから、会場はざわめいた。

 党風刷新連盟(当初は「党風刷新懇話会」)は1962年、後に首相となる福田赳夫を中心に結成された。福田の後見人で池田に批判的だった昭和の妖怪・岸信介も暗躍していた。岸は安倍の母方の祖父にあたる。岸田からすれば、安倍派は“先祖”の宿敵にあたる。安倍は牽制と受け取っただろう。

 岸田の「安倍離れ」は多くのマスコミが指摘している通りだ。アベノマスクの処分がその象徴であり、親中派で知られる林芳正の外相起用も安倍の不快感につながっている。禅譲を期待して安倍に服従してきた岸田は、安倍に裏切られ、菅に首相の座を奪われたことを忘れてはいない。

 それにしても、戦後最長政権を担った安倍はなぜ「一丁あがり」にならないのか。まだ先のある67歳という年齢が大きいが、それ以上に重要な要素がある。関係者によると、安倍は現在、体調がすこぶる良いというのだ。持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、通院が必要となったのは昔の話で、気力と体力がみなぎっている。安倍の三度目の登板は十分あり得るだろう。