フル稼働の菅前首相

 麻生、安倍以上に意気軒高なのは、前首相の菅義偉である。衆院選後に沖縄視察を行ったほか、昨年末も金沢に出張した。地方局のテレビ番組に立て続けに出演するなど露出を増やしており、自らが手掛けた政策の成果をツイッターやインスタグラムで頻繁に発信している。G7(主要7カ国)で最も高い接種率(2回)達成の道筋をつけたにもかかわらず退陣を余儀なくされた不運の宰相が早くもフル稼働している。

左から安倍晋三元首相、麻生太郎党副総裁、菅義偉前首相(写真:つのだよしお/アフロ)

 安倍、麻生、茂木の3人が雷門で鳥料理を堪能していたほぼ同時刻、菅は武田良太前総務相、林幹雄・前幹事長代行、森山裕・前国対委員長、石破茂・元幹事長と赤坂の高級ふぐ料理店にいた。メディアが盛んに取り上げた「反主流派」会合である。この日の会合には前幹事長、二階俊博は出席しなかったが、もともとセッティングをしたのは二階だったようだ。

 会合は二階派の後継者と目される武田が菅を激励し、盛り上がったという。菅は十八番の朝食会は再開していないものの、経済人らとの夜会合には応じている。菅は衆参の無派閥議員40人を束ねており、2022年中に派閥結成に踏み切るとの観測もある。なお、菅の現在の名刺には「前内閣総理大臣」ではなく、「衆議院議員」の文字が刷られている。一議員としての復権の覚悟が感じられる。「内閣府や総務省の絡む個別政策ではいまだに影響力がある」(官邸関係者)と言われており、議員会館の菅の自室には大物官僚や業界団体のトップが日参している。

 菅といえば、日本テレビ元政治部記者が書いた『孤独の宰相』(文藝春秋)が永田町で一時話題となった。オフレコ発言が明かされているある種の暴露本で、内容を聞かされていなかった菅が激怒し、日本テレビは事務所を実質的に出入り禁止となった。この本は当然、岸田も熟読している。菅が岸田を徹底的に批判しているくだりが散見されるからだ。表に出てしまった以上、隠しようがない。菅は「反岸田」の一点で反主流派をまとめるしか道はない。