12月9日、北京郵電大学で行われた聖火展示イベントで、聖火を抱えて入場するスタッフ(写真:ロイター/アフロ)

(舛添 要一:国際政治学者)

 アメリカに次いでオーストラリア、イギリス、カナダも北京五輪の外交的ボイコットを決めた。中国が人権を弾圧しているというのが、その理由である。

 習近平政権は、香港の民主化を弾圧したり、新疆ウイグル地区のウイグル族の人権を抑圧したりして、厳しい国際批判に晒されている。

 その火に油を注ぐ形になったのは、女子テニス界のスタープレーヤー、彭帥の問題である。前副首相の張高麗に性的関係を強いられたと告白して以来、彼女の行方が分からなくなり、これまた人権侵害だという批判が強まった。

 彼女が健在であることを示す写真や動画が中国政府筋から公表され、バッハIOC会長もテレビ電話で彼女と語り合う演出に参加した。しかし、中国によるその宣伝活動は逆効果となり、北京への国際的不信感を増幅させることになってしまった。

 WTA(女子テニス協会)は、彭帥の安全に関する確証を持てないとして、中国における全試合の中止を決めている。

 そのような流れの中で、バイデン米大統領は、北京五輪に政府高官を派遣しないことを決めたのである。

12月6日、北京五輪・パラリンピックへの外交的ボイコットを発表した米国のジェン・サキ大統領報道官(写真:ロイター/アフロ)

外交的ボイコットは中国を揺さぶる一手段

 その背景には、世界の覇権を巡る米中対立がある。中国は猛烈な勢いで軍拡を進めており、南シナ海、太平洋に進出し、既成事実を積み重ねて島嶼部に軍事拠点を築こうとしている。

 とりわけ「中国は一つ」という立場から、台湾の分離独立の動きは容認せず、武力統一の可能性も排除していない。欧米諸国の議員団が相次いで台湾を訪問していることに苛立っている。中国にとっては、ウイグル自治区の人権問題と同様に、それは「内政干渉」だからである。