文在寅大統領(写真:AP/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 任期が残り5カ月となった韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとって、最大の外交的課題は朝鮮戦争の「終戦宣言」を出すことだ。そしてもう一つが、中国の習近平国家主席の訪韓実現だろう。ただ後者については、新型コロナの影響で実現性が高くない。

 そこで文在寅大統領としては、北京オリンピックの開会式に合わせて自ら北京に乗り込み、そこで北朝鮮および米中首脳と共同で朝鮮戦争の終戦宣言を行うとともに、あわせて習近平主席との首脳会談を実現するという絵図を思い描いていた。

 というのも、文大統領には、2018年の平昌五輪では、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(当時。現総書記)の実妹・金与正(キム・ヨジョン)氏に開会式に参加してもらうことに成功、これを契機に南北首脳会談や米朝首脳会談につなげた“実績”がある。今年夏の東京五輪でも、実現はしなかったが日韓首脳会談や南北首脳会談を目論んでいた。五輪を強力なテコに外交を動かすのが自分の得意技と思い込んでいるフシがある。

これが文在寅大統領が誇る五輪外交の“実績”。2018年2月の平昌五輪開会式に北朝鮮の金与正氏(後列右)に参加してもらうことに成功した。前列左はIOCのトーマス・バッハ会長(写真:ロイター/アフロ)

 しかし来年2月の北京五輪に関しては、米国が外交的ボイコットを宣言したことで、文在寅政権中に南北・米中が関与する終戦宣言の実現は難しくなった。そればかりか文在寅大統領の中国訪問までもが困難な状況になってしまった。

 文在寅大統領が任期中に目指した2つの外交的課題が霧散したことで、「文在寅外交」は実質的に終焉したと言ってもいいだろう。

米国の外交的ボイコットに英国、カナダ、豪州、NZが追随

 本来、この時期に文在寅大統領が示すべきは、米中関係における韓国の立ち位置、そして日韓関係をどう改善するかという道筋である。しかし、文在寅大統領はこれらの懸案について本格的な取り組みを、むしろ避けてきた。

 要するに、文在寅大統領は、韓国の国益を増進させるような、広い視野での外交をやってこなかったのだ。そのツケが任期終了間際になって一気に噴出してきた。