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写真:代表撮影/ロイター/アフロ

(文:新潮社フォーサイト)

薄氷を踏みながら多くの接戦・劣勢選挙区を拾った“大勝”は、公明党の存在抜きにはあり得なかった。一方で、党内には高市・安倍の保守派圧力、そして国民人気は高い「小石河連合」も無視できない。「オールラインナップ」の政策には、岸田首相の党内基盤の弱さが映されている。

 第2次内閣組閣を終えた今月10日夜、岸田文雄首相は官邸で約1時間に及ぶ記者会見に臨んだ。子育て世帯への10万円相当給付などの福祉から新型コロナウイルス対策、防衛力強化、憲法改正まで言及。「左から右まで」幅広く取り揃えた「オールラインナップ」の内容には、その背後に様々な思惑や力学が透けて見える。

 連立を組む公明党への配慮、次期宰相の座を窺う高市早苗・自民党政調会長といったライバルの懐柔と牽制、安倍晋三元首相らのつなぎ止め――。岸田首相が長期政権を手にするには来年の参院選勝利が必須だが、それまで均衡を保てるか。9月の総裁選を争った河野太郎・自民党広報本部長や、河野氏とタッグを組んだ石破茂元幹事長、小泉進次郞前環境相を指す非主流派「小石河連合」への有権者の好感度も健在だ。

公明党への配慮に待ったをかけた高市氏

 会見ではまず「数十兆円規模の経済対策」の中身、特に「年収960万円を超える世帯以外への18歳以下の子ども1人当たり10万円相当の支給」が注目された。公明党が衆院選で「一律支給」を打ち出したのに対し、自民は所得制限を設ける方向で調整を進めたからだ。このプランは19日に自民党案の形で決着するが、ある政府関係者によれば、岸田首相は当初、所得制限なしも選択肢に入れたという。理由は公明党への配慮に他ならない。

 衆院選で接戦・劣勢と判定された小選挙区の多くで自民候補が競り勝てたのは、選挙戦終盤、自民票の上積みにフル回転した公明党の存在があったからだ。与党筋の一人は「ある小選挙区では間違いなく劣勢と思っていたのに、結果は逆転勝利で驚いた。公明党支持の厚い地域なので、公明票が貢献したに違いない」と話す。こうした事情から、政府、自民党の一部には公明案の「丸吞み」もやむなしとの雰囲気があった。

 だが、それに立ちはだかったのが高市政調会長だ。高市氏は「自民党公約は困っている方々に対する支援」との趣旨を内外で述べ、公明案は呑めないとの考えを強調した。総裁選で安倍元首相の支援を受けて立候補した高市氏は、決選投票では岸田氏支持に回っている。しかし岸田政権成立後、高市氏自身こそ政調会長ポストを得たものの、陣営を支えた他の実力派議員らの要職起用は大方の予想を下回った。目立つのは文部科学相から横すべりした萩生田光一経済産業相、留任した岸信夫防衛相らに止まり、一連の人事は「安倍外し」とさえ報じられた。

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