人が生きるこの世の中の裏側に、幽かなものが棲む冥(くら)い闇の異界がある。
霊とは神々が零落した存在で、神とは姿を隠す「かくれみ」からきている。だが、姿を隠したままではいられず、表に出てくるものもいる。
霊などが表に出て人に乗り移ることを憑依という。人に取り憑く霊は様々で、悪魔によるものは悪魔憑き、狐によるものは狐憑きなどといわれている。
科学技術が発展した現代、憑依は迷信だと考えられがちだが、いまも霊が取り憑く現象は存在すると世界各地で信じられている。
「物託(ものつき)の女、物託つて云く、己は狐也、祟をなして来れるに非ず」
これは「狐憑き」について『今昔物語』に記された最も古い記述である。
かつて、わが国で各地に頻繁に見られた狐憑きは、いまは稀な存在となり、私たちは憑霊といった現象には、あまり直面しなくなったようにも見える。
だが、狐憑きは、いまも私たちのすぐ近くに密かに身を潜めている。
人が、ある種の霊力に「憑依」されると、その人の精神と行動が支配され、神懸かった五感の鋭敏さだけでなく第六感といった直感の鋭さを見せることがある。
そうした普段とは全く別人の魂が入り込んだような、あるいは本来の魂が抜けたような状態を変性意識状態という。
古来、日本では霊的な状態に身心が支配される現象を「憑(つ)く」と称してきた。
「つく」という言葉は、ことがうまくいき幸運である、というツキがあるといった良い意味で用いることも、負けてばっかりで今日はツイていないといった使われ方をする。