生物化学兵器によるテロや原子力災害をも想定した新法を

(2)緊急事態新法を制定せよ

 次に、パンデミックの再来に備え、緊急事態新法を制定すべきである。厚生労働省所管の新型インフルエンザ等対策特別措置法や感染症法を根拠とした対応では、どうしても厚生労働省の論理が働くことになる。繰り返しになるが、パンデミックは国民生活ほとんど全ての面に影響があるのだ。特定の省庁だけで議論できる問題ではない。

 新法では、局所的な緊急事態を「地域緊急事態」、広域的な緊急事態を「全国緊急事態」と定義し、緊急事態における総理大臣の権限を明記すべきである。具体的には、都道府県知事及び指定公共機関への命令権や指定準公共機関への要請権、個人の権限が制限される公共の福祉の定義についても明記すべきであろう。

 また、対象となる緊急事態については、感染症などの疾病はもちろん広くCBRN事態(化学〈Chemical〉、生物〈Biological〉、放射性物質〈Radiological〉、核〈Nuclear〉に関する事態)を想定すべきである。これは、テロ組織や他国からの意図された攻撃か、意図せざる事態であるかにかかわらず、認知初期段階ではCBRN事態と未知感染症との区別はもちろん、そもそもどのような事態であるかの判断は容易ではないからである。

 地域緊急事態においては、総理大臣を本部長とする地域緊急事態対策本部を設置したうえで、(1)で提案した国民危機対策局がその司令塔機能を果たすのが良い。緊急事態が顕在化している都道府県のみならず近隣の都道府県知事に対しても協力命令を発出する、都道府県知事の要請がなくとも自衛隊の災害派遣をする、といった対応が可能となる体制を整えておくべきである。また現行の感染症法では病床確保要請ができることとなっているが、それよりも強い病床確保命令を指定公共機関である公立病院に対して発出する、あるいは同じく指定公共機関であるNHKに対して政府情報の放送命令を発出する、といった権限を担保すべきである。

 緊急事態がより広範囲となった場合は、地域緊急事態から全国緊急事態に移行し、総理大臣を本部長とする全国緊急事態対策本部を設置したうえで、国家安全保障局及び国民危機対策局が合同でその司令塔機能を果たすのが良い。国家安全保障局が関与するのは、緊急事態が広範囲となる場合は、その危機が国境を越えた国際的なものであることも想定され、また自衛隊の派遣も必要になる事態も想定できるからである。

 ここでは指定公共機関である公立病院やNHKに対する命令に加えて、民間病院や民間放送局を指定準公共機関として予め明記しておき、それらの指定準公共機関に対する要請権限を担保すべきである。