例えば、首都圏においてはいわゆるキー局と呼ばれる主要民放5局が関東広域圏(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県)に対して同一の放送を行っているが、広域的な緊急事態においても特に事態が深刻な地域について、ないしは東京を中心とした情報を横並びで5局全ての放送局から送信される場合も多く地域情報発信の役割分担も課題となっている。そこで民放のサブチャンネルに対する政府による放送要請によって、例えば日本テレビには千葉県の情報発信を、TBSには神奈川県の情報発信を担わせる、といったことで、地域情報需要者に対して、より適切に情報供給を行わせるべきである。今次のCOVID-19は戦後最大の災害と言ってよい。このような事態でさえ、サブチャンネルもメインチャンネルと同じ情報を発信し続けている。今後も地域情報発信のためにサブチャンネルが活用されないのであれば、サブチャンネルの電波帯域の再配分も検討するべきだ。
もちろん将来的には憲法論議にもつながる議論であるが、憲法改正は時間をかけた議論が不可欠である(言うまでもなく議論のための議論といった徒に議論を長くすることはあってはならない)。憲法に明記されている「公共の福祉」の概念を慎重に整理したうえで、まずは現行憲法下における緊急事態新法を制定すべきである。
省庁縦割りでは緊急事態に対応できない
(3)保安省(日本版国土安全保障省)を設置せよ
さらに、国民保安行政を総合的に担当する保安省を設置すべきである。我が国の国民保安に関する行政は、多くの省庁にまたがっており、縦割り行政の最たるものと言ってよい。例えば、COVID-19認知当初のダイヤモンドプリンセス号の対応を考えても、出入国管理(法務省)、検疫(厚生労働省)、救急(消防庁)、警備(警察庁)、海上保安(海上保安庁)と所管官庁は多岐にわたっている。それぞれに指揮命令系統があるため、情報共有はもちろん現場での様々な対応に大きな困難があるのは明らかである。
アメリカにおいては、2001年の同時多発テロを契機として2002年に国民保安行政の一元化を行い、国土安全保障省を設立している。警察(FBI)は含まれていないものの、消防、海上保安、航空保安、出入国管理、検疫、生物テロ対策などの行政を一元的に担っている。そこで我が国においても、縦割り行政を打破し、国民保安行政の一元化を行うべきである。
具体的には、内局(次官、官房長、総合政策局)及び、外局(公安調査庁、出入国在留管理庁、保健庁、警察庁、消防庁、海上保安庁、航空保安庁)からなる保安省を設置すべきである。公安調査庁は法務省から移管、出入国在留管理庁は法務省から移管し、厚生労働省検疫所、農林水産省植物防疫所・動物検疫所を統合する。また、警察庁は国家公安委員会から移管、消防庁は総務省から移管、海上保安庁、航空保安庁(航空局安全部及び交通管制部)は国土交通省から移管する。保健庁は、厚生労働省から健康局及び国立感染症研究所を移管し、日本版CDCとして組織すべきである。
保安省の設置は、前時代的な危機事象認識に基づいた領域縦割行政から脱却し、現代の危機事象に対応する行政のニューノーマル化と位置付けることができよう。またこのような緊急事態対応のための強力な組織によって、パンデミックのような医療に関する緊急事態においても「厚生ムラ」論理を排除することができよう。