「次のパンデミック」に備えて

 これまで議論してきたように、COVID-19に代表される感染症は、一次的には医療の課題であるが、その影響、損害は広範囲にわたっている。政府全省庁を挙げた政策総動員が必要な事態である。それにもかかわらず、感染症法あるいは新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて厚生労働省主導で対応せざるを得なかった組織体制の不備が、「厚生ムラ」論理の跋扈を許し、国民に必要な医療供給に制約がかかり、効果的な緊急事態対応を困難にしてしまった。

 もちろん、本稿で提言したような、保安省という新たな巨大官庁の設置や防衛省の機能強化は、新たな「組織の論理」を生み出す可能性がある。しかし、官僚機構は常に「組織の論理」を進化させ、肥大化していくものである。そのため、官僚機構のスクラップアンドビルドは、時代変化に応じて不断に行われなければならないのである。そして今次のCOVID-19の襲来と、国際交流の進化拡大によるパンデミック再来の確実性を考えたとき、効果的な対応の足かせとなっている「厚生ムラ」は直ちに解体されなければならない。そして官邸主導による強靭な組織体制の整備が不可欠である。

 最後に、このような改革をどのように進めていくべきか。この点について指摘しておきたい。ひとつは総理大臣の強力なリーダシップの下、抵抗勢力に屈することなく短期間で改革を実現するための会議体が必要である。具体的には、総理大臣を議長とした「国民保健改革会議」を設置し、改革のエンジンとすべきであろう。

 行政府だけでなく立法府にも、今次のCOVID-19を総括する役割が問われている。東日本大震災に伴う原子力発電所の事故に対して国会原発事故調が設置されたように、COVID-19対応検証委員会法を議員立法によって成立させ、COVID-19対応検証委員会を設置すべきである。委員会の検証結果を衆参議長に報告し、後世への教訓として活かしていくことが重要だ。

 次のパンデミックへの備えは、現状の厚生労働行政を前提とした小手先の改革もどきで終わらせてはならない。独占利益集団「厚生ムラ」を解体する力強い改革が求められている。