新型コロナウイルス感染症第5波では、重症患者数が過去最多となり、今も増え続けている。重症患者診療の最前線に立ち、埼玉県の医療体制拡充にも携わる自治医科大学教授・讃井教授が、逼迫する重症病床の現状を報告する。連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第64回。
埼玉県のコロナ専用重症病床はほぼ満床
救急車に乗せた新型コロナウイルス感染症患者の症状が急激に悪化・・・。
つい先日、私が勤務する自治医科大学附属さいたま医療センターへ、中等症病院から30代の患者を転院搬送する際のことです。移動は患者の体にとって大きな負担となるため、状態が悪化することも稀ではありません。この時もそうでした。呼吸は荒く苦しそうになり、SpO2(動脈血酸素飽和度)がぐんぐん低下していきました。すぐにでも人工呼吸器を気管挿管しなければ命にかかわる状態です。
しかし、救急車の中での気管挿管は難しく、それ自体によって心停止に至る可能性があります。私は、祈るような気持ちで片手で酸素マスクを患者の顔にピタッと押し当て、もう一方の手で呼吸バッグを揉みながら呼吸をサポートしました。すると、SpO2は90前後に落ち着きました。患者はなんとか持ちこたえ、当院到着後すみやかに気管挿管し、ICUに入室することができました。
今、重症患者が増え続けています。第5波が始まり東京都に緊急事態宣言が出た7月12日に432人だった全国の重症患者数は、その後一本調子で増加し続け、8月30日時点で2075人と5倍近くになっています。新規陽性者数はやや減少に転じていますが、重症患者数の増加は感染者数の増加から遅れてやってきますので、今後も増えていくことが予想されます。しかし、埼玉県では(おそらくどの自治体でも)、現時点ですでにコロナ専用に確保されたICUなどの重症病床はほぼ満床です。