「厚生ムラ」の守旧的硬直的論理がパンデミック対応の障害に

 緊急事態宣言の発出に代表される今次のCOVID-19対応は、主として新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づいて行われている。この特措法は2009年に世界で流行した新型インフルエンザを踏まえ、当時の民主党政権が2012年に制定した法律である。「等」が、いわゆる「霞が関文学」の代表例であり、新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスではないものの「等」の範疇であるとして適用されるものである。この法律に基づいて「新型インフルエンザ等対策有識者会議」が設置されており、また「新型コロナウイルス感染症対策分科会」(いわゆる分科会)も設置されている。

 最大の問題点は、この特措法の所管が厚生労働省であり、有識者会議も分科会も厚生労働省とのもたれあい関係にある委員で構成される等、「厚生ムラ」が牛耳っているということである。結果として、今次のCOVID-19対応が「厚生ムラ」の守旧的硬直的論理によって大きく歪められ、医療供給に強い制約がなされることで医療崩壊が発生し、また多大な経済的損害を国民に強いることとなったのである。

 問題点をより具体的に指摘したい。一般に、政府の審議会などは、霞が関発の政策に箔をつけるということも大きな目的である。そのため、有識者委員に対して事前レクで(政策実務からは程遠い)大所高所からの有難いご見識をご披露頂きつつ、「ただ、ご案内の通り実務上は難しい面がございまして」等と差し込んで、結果として審議会当日には当局が用意した「ご発言メモ」に沿って発言させ、予め当局で練られた政策に箔をつけようとする。

 そのため、審議会の委員選定にあたっては、外形的に中立に見えるよう老若男女をバランスよく配置しつつ、その実は当局の影響力が及ぶような人選が行われている。もちろん、審議会委員個人の識見を批判するものではない。

 ただし委員の専門的知見は、多くの場合政策実務に関するものではないため、委員からの指摘は大所高所からのものとならざるを得ない。それを利用する霞が関の構造こそが問題なのである。

 例えば、厚生労働省の厚生科学審議会の委員を見てみよう。大学等の研究者及びメディアの代表に加えて、医師会、歯科医師会、看護協会、薬剤師会、理容生活衛生同業組合連合会、製薬工業協会(以上、厚生労働省所管領域業界団体)、国立病院機構、国立医薬品食品衛生研究所、国立感染症研究所、国立社会保障・人口問題研究所(以上厚生労働省外郭団体)の代表が並んでいる。

 これを踏まえて、分科会の委員構成を見てみよう。分科会長の尾身茂氏は厚生労働省外郭団体である地域医療機能推進機構の理事長であり、分科会長代理の脇田隆字氏もまた厚生労働省外郭団体である国立感染症研究所の所長である。これに加えて、正規構成員に医師会、臨時構成員に医療法人協会、保険所長会という厚生労働省所管領域業界団体の代表が名を連ねている。このように、分科会委員の人選には厚生労働省の強い影響が見て取れる。

 そもそも尾身茂氏は厚生労働省OBでもあり、厚生労働省の人事秩序の下で外郭団体である地域医療機能推進機構に天下りをしているのである。もちろん、尾身茂氏をはじめとする構成員が、厚生行政や感染症対策に深い見識を有していることは間違いない。そのことを批判するつもりはない。

 しかし、特に尾身氏は厚生労働省の秩序の中にあり、すなわち「厚生ムラ」の代弁者でもあるのだ。結果として、今次のCOVID-19対応が「厚生ムラ」の利権構造には手を触れさせまいとする片手落ちの対応となってしまうのだ。