昨年9月14日、自民党総裁選で勝利した菅義偉官房長官(当時)は総裁室で記念撮影に応じた。一年後の今、この椅子を巡ってまた激しい戦いが繰り広げられている(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(舛添 要一:国際政治学者)

 政府は、北海道、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、広島、福岡、沖縄の19都道府県の緊急事態宣言を9月30日まで延長する。福島、石川、香川、熊本、宮崎、鹿児島のまん延防止等重点措置は9月30日まで延長し、宮城と岡山は宣言から重点措置に移行させる。また、富山、山梨、愛媛、高知、佐賀、長崎は、12日に重点措置を解除する。

 政府の分科会は、宣言解除の指標として、医療逼迫状況を重視する方針であるが、病床不足は医療資源の最適配分に失敗した結果だ。言うなれば、政府や医師会の責任であり、的確なアドバイスができない分科会の問題でもある。

 アメリカのファウチ博士は、臨床経験も豊富で、数多くの研究論文を書いているが、分科会の尾身茂会長にはそのような実績はなく、単なる政府御用達の便利屋である。医系技官出身でWHOでの勤務が勲章になっているだけで、2009年の新型インフルエンザのパンデミックのときも、彼が専門家会議の座長であった。官僚は厚労省の医系技官としては、先輩であり御しやすいので、12年経っても同じ人物を使っているのだ。

 コロナ対策の失敗で支持率の低下がやまず、菅義偉首相は自民党総裁選への不出馬を決めた。退陣表明である。その責任の一端は、尾身氏を長とする専門家集団にもあることを厳しく指摘しておきたい。

自民党は総裁選でメディア・ジャックに成功

 コロナ感染者の推移を見ていると、全国的に減少傾向が続き、どうやらピークアウトしたと思われる。人出が減ったわけでもないのに、なぜ減るのか。ワクチン接種が進んでいることも一因だが、季節的要因もまた考えられる。ただ、夏のピークが終わっても、これから寒くなっていくと、昨年もそうだったが、冬のピークがまた始まることが考えられる。安心できる状況ではないのは間違いない。

 一方、今年になって、東京では緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象とならなかった月はなく、飲食業や観光業など営業不振で倒産する会社が続出している。経済面での政策的配慮も不可欠だ。ワクチンパスポートや陰性証明書を発行して、規制の対象を減らせば、経済と感染防止の両立が可能となる。

 ところが、これまでの安倍、菅政権の対応は常に後手後手で、それがいつまでも緊急事態宣言を解除できない惨状に繋がっている。欧米先進国やイスラエルなどと比較すると、周回遅れの対応であり、国民の不満と不安は高まっていた。それが菅退陣を決定づけた。

 そして、いざ菅首相が退陣表明をするや、世の関心はコロナから、自民党総裁選にシフトした。マスコミは自民党総裁選一色になり、まさにメディア・ジャックされたも同然だ。おかげで野党の影はすっかり薄くなり、来たる衆議院選挙での政権交代など期待できない状況になっている。